王の御心はわからないのに・・でも求めてしまうなんて
こんな仕事引き受けなければよかった?
ううん、違うわ。ライザール様に出会えたことに後悔はないもの。
婚約指輪も合鍵も私のためじゃないってわかってるのに・・
今だけ・・今だけでもいいから・・
気を落ち着けたくて取り出したペンダントの鍵を握り締めるのが癖になってしまいそうだった。
鍵と言えば・・・以前ヴィンス殿下からお伺いした物語が脳裏をよぎる。
裕福な貴族と結婚した娘が見舞われる恐怖の物語だった。
あらゆる贅沢を許しながら一方で妻を量っていた冷酷な夫。
夫の思惑を知らずに留守の間の鍵束を預かった妻は、夫から禁じられた開かずの扉のドアを開けてしまうという寓話だった。
悪いのは試す夫なのか約束を破った妻なのか・・・
聞いた時は密偵の性で好奇心に負けた妻が悪いと思ったけど、夫の正体を追求せずに見過ごせば女として幸せだったとも思えた。
けれど秘密の全くない人間なんてそうはいないはず。
忘れ得ぬ人がいる・・そうおっしゃったライザール様の秘密を暴きたいような知りたくないような心地がしたことを今更ながらに思い出してしまう。
けれど私自身ルトのことをライザール様に打ち明けることは簡単ではなかった。
大切な思い出を打ち明けるのは勇気がいるもの。
だけどそれだけではなくて、今の私にとってルトとの思い出と目の前のライザール様とどちらがより大切なのかわからなくなっていたからかもしれない。