すると私の耳に顔を寄せた王が囁かれた。熱い吐息に耳たぶをくすぐられてゾクリとしてしまう。

 

「・・踊りたかったか?」

 

咄嗟に王を窺うと「お前の気持ちはわかっている」とばかりに頷かれた。

 

やはりこの方に隠し事はできないようだ。

 

だから素直に頷き返した後、付け加えた。

 

「機会があればぜひ、ご披露いたしますから」

 

他の誰でもなくライザール様にご覧いただきたかった。

 

すると王も満足げに微笑まれる。

 

「私も踊るお前を見るのは好きだ・・だから楽しみにしているぞ、シリーン」

 

―え?

 

それってつまりどういうことかしら。踊る私が好きだということはカマルに来られたことがあるということ?

 

秘密主義の店主様は何もおっしゃられなかったけど、もしかするとお忍びで来店された可能性はあった。

 

けれど今追及することはできなかったので曖昧に頷き返す。

 

そもそもライザール様は私が密偵だとどうやって知られたのだろうか?

 

蛇の道は蛇だから、多くの密偵を抱えるのは王も同じだろう。

 

つまりそうなるとずっと以前から私のことを調査していた可能性があるということだった。

 

仮にも王の婚約者の身代わりに抜擢するならば事前調査が念入りに行われてもおかしくはないけれど。

 

それからほどなく謎が深まったままお披露目を兼ねた晩餐会は滞りなく終了したのだった。