「確かに、この度の婚姻は王である私にとって重要だった・・・だったが、もしレイラと結婚すれば同時に後悔するだろうこともわかっていた。野心のための犠牲をはらうだけの覚悟がなかったといっていい。王である前に私もまた人なのだと思ってしまったのだ。・・人生は一度きり・・だからもう二度と後悔しないと決めていたことを思い出した」
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ああ、わかるわ・・その気持ち
私も砂漠で遭難して九死に一生を得た時にそう実感したもの
だから野心のためにはレイラ様との結婚がベストだと知りながらも、人として迷われた王の気持ちは痛いほどわかった。
結局レイラ様の逃亡で王は悩みから解放されたのね。
「一度きりの人生を後悔のないように生きる・・簡単そうで難しいですね」
なぜなら願いがすべて叶う者などいないからだ。
人生は妥協の連続と言っていい。
もし二度とルトに再会できなかったとしても、あの夏彼と過ごした思い出は私にとって一生の宝ものだったし、出会ったことに後悔はなかった。
「そうだな・・王であってもそれは変わらない。忘れられない相手を追い求める人生だ」
――え?
思わず見上げた顔はどこか憂いを秘めていて、声をかけることを躊躇ってしまう。
その訝しむような眼差しは私に注がれており共感を欲しているように見えた。
貴方も・・なのですか?
この時の私の心を占めたのは王の追憶の中にすまう想い人に対する嫉妬ではなく似た葛藤を抱えた者に出会えた共感だった。
たくさんの選択肢があってもたった一つの解しかないなんて。
やはり私達はどこか似ているのかもしれない。