「欲のないことを言う。それはお前に贈ったのだから返さなくていい」
そうはおっしゃられても困ります。王からのいただき物を転売するのも気が引けますもの。
だからといって身に着けていたらあらぬ誤解のもとだろうから。
きっと王にもご迷惑がかかってしまうでしょう?
舞妖妃としての私を御所望ならばともかく私はしがない密偵、
十分立場は弁えてますから。
そうは思ってもあつらえたように指にしっくりと嵌る指輪をするのは気分がよかった。
こんな時は私も女なんだなって実感してしまう。
口元がほころぶのはとめられそうもなかったけれど、私の反応を見た王は上機嫌でご満足そうだったからよかったんだと思うわ。
指輪一つで懐柔されてしまったわけではないけれど、私はあらためて王に微笑み返した。
そうしたら今度は手を繋いだそのままの状態で王が歩き出した。
――ええ!?
謁見の間を出て外回廊を周り込み中庭へと連れ歩かれる間誰とも会うこともなかった。
仮にも一国の王だけに気が気じゃなかったわ。
私自身腕に覚えはあったけれど、どこに不届き者が潜んでいるかわからないでしょう?
王と謁見する前に身体調査もあることを見越してあいにくと武器は携帯していなかった。武器になりそうなものはコインを縫い付けた帯くらいかしら。
いずれにせよ本日の私は密偵モードではなかった。
私の歩幅に合わせてゆったりと歩かれる王の腰には鞭が差してあった。
荒々しい武器だけど野性的な風貌のライザール王には妙に似合っているわね。