そんな私が王の婚約者のフリをしなければならないなんて・・ね。
「期日は1週間、婚約者の代わりをしてくれればいい。簡単だろう?」
店主様の無茶振りは今に始まったことではなかったが、さすがに驚きは隠せなかった。
とはいえ、私自身若き師子王に興味はあった。
それにこれはまだ探索できていない王宮に行くチャンスでもあった。
少女の頃片思いしていた琥珀色の瞳のルト・・
彼を求めて国内外は探したがついぞ手掛かりは得られなかった。
ルトとは砂漠で出会ったが彼は砂漠の民とも違う一匹オオカミだった
唯一の相棒の黒豹を連れ歩き私にもサバイバルの術を教えてくれたわ
一緒に過ごしたあの夏を最後に彼の姿をいくら探しても今日まで発見にいたらなかった。
流浪の旅に出た可能性もあったから私も密偵として各国を回ったけれど結局いくつかの出会いはあってもルトを見つけることはできなかった。
だけど私はルトの生存を確信していたから希望はあった。
相棒の黒豹を老衰で亡くしてしまった後、一人ぼっちになった彼がどうしているかはわからなかった。
早くにお母さまを亡くしたルトの家族はお父様だけだったはず・・・
その父親に反発して家出中に砂漠で遭難していた私と遭遇したのよ。
ルトは私にとって大恩人だった。生涯忘れることはできない人だわ。
アウトローな見た目に反してかなりの博識のある知性的な男性だったし、紳士だった。
あの頃二十歳くらいだったから今はもう30代くらいかしら。もうそんなに経ってしまったなんて・・もう彼の顔も朧気だったけれどあの燃えるような瞳の色だけは私の心を未だにざわめつかせるものだった。