「で、ではご機嫌よう・・あせる

 

社交辞令を述べた私はこれ以上藪蛇にならないようにすーーっと希驪様の傍を離れてヴィンス様と歓談中のライザール様の元に戻った。

 

おねがいドキドキ

 

やっぱり愛する方の顔を見たらホッとしてしまう。

 

「戻ったか、シリーン・・わが婚約者殿」

 

上機嫌のライザール様にさりげなく寄り添いながらヴィンス様に会釈すると、顎に手を当てたヴィンス様が嘆息された。

 

「まさか『貴女』がライザール王と婚約したとはな・・俺もまだまだ女心の勉強不足らしい」

 

あら、王の婚約者になったとたん呼称が「お前」から「貴女」になったわね。

 

「ただ心から尊敬できる方に巡り合えた幸運な女なだけですわ」

 

けむに巻くように微笑みながらも、その言葉に偽りはなかった。

 

初恋のルトに憧れた少女だった私が一国を背負う王になられたライザール様と再会して、彼の人柄や生き様に強く惹かれ、

愛した彼と共に生きたいと望み、心に従っただけだもの。

これは限りなく純愛といえた。

 

はたして私が彼に相応しい女なのか悩んだこともあったけれど、

ライザール様は他の誰でもなくただ私を選んでくださった。

 

憧れていただけの頃と違い、今の私には彼の愛に応える覚悟も自負もあるわ。

 

だから求婚をお受けすることができたの。

 

それはこれまで培った経験や失敗があったからこそだと思う。