朝早く街を出て目的地に着いたのは昼過ぎだった。

 

ラクダに乗り私が辿り着いたのはかつてルトと過ごしたことのあるテロメアーナの坑道だった。

 

鮮やかな鉱石が乱反射してまるで海の中のようだった。

 

覚えていないけれどまるで母の胎内にいるかのようで落ち着く。

 

この場所を知るのはルトと店主様だけだった・・

 

そう思えば油断はできなかったが今頃私の出奔はすでに知れ渡っているだろうか。

 

ルト・・・貴方は今頃どうしているかしら?

 

近づけたと思ったのは幻想だったことが悲しかった。

まるで砂漠の蜃気楼のように捕まえることのできない人だった。

 

きっと初めからそうだった。

 

ルトと過ごした幸せは探しに来た店主様によって記憶と共にあっさりと消え去ってしまったのだから。

 

思い出さなければよかった。そうすれば偽りだったとしても店主様とジェミルとこれまでどおり暮らせたかもしれない。

 

だけど店主様の野望を知ってしまった今ではそれすら苦痛でしかなかった。

 

私を利用せずに愛して大切にしてくれたのはルトだけだった。

ジェミルも確かに愛してくれたけれど本心を明かさず、私の体だけを奪ったジェミルを受け入れることはできなかった。

 

私の愛はこれからもずっと貴方だけのものよ・・ルト

 

密偵をやめるのならばただのシリーンに戻るしかなかった。

でもその傍らにルトはおらずあの笑顔を見ることは二度と叶わないのだと思うと喪失感がとめどなく押し寄せてきた。

 

いっそのこと貴方のことを忘れてしまえたら・・

こんなに苦しまなくてもすむのに・・

 

ふと魔が差してしまう。

落ち着いていたのも初めだけでこんな寂しい場所に一人だと思うとどんどん気持ちが沈む一方だった。

 

誰か・・・誰か私を助けて!

 

そんな風に思った時だった。