深みにはまったのかすでに完全に飲まれてしまった店主様の最期はあっけないものだった。

 

長年にわたり私を支配してきた店主様がいなくなってしまった以上、やっと自由になれた気がした。

 

悲しむ気は起きなかった。優しい笑顔でとことん利用しつくす恐ろしい男だったから。

 

それなのになぜか涙が溢れてしまう・・

 

ああ・・私はまだ泣けるのね・・

 

なんだかひどく感動してしまう。自由になれた喜びと店主様を失った悲しみで散々泣いたけれどもう動くことはできそうになかった。

 

せっかく流砂から助かったのに・・きっとここにいたら干上がってしまうわね・・容赦なくジリジリと照り付ける太陽には抗えそうになかった。

 

でもここで命を落としてもシャナーサの大地に還るだけだ

 

・・この地に生を受けた者としてそれはさほど悪くない気はした。

 

ああ・・ルトできることならもう一度貴方に会いたかった・・

 

――シリーン!!

 

懐かしい貴方の声・・好きよ・・愛してるわ・・ルト

 

「おい!生きてるか!」

 

・・・

 

なあにうるさいわね・・せっかく気持ちよく寝ているのに・・

 

「・・・生きてるわよ・・」

 

返事をした途端口の中に水が流れ込んできた。

 

水!水だわ!ああ・・・お願いもっとちょうだい!!

 

「落ち着いて飲め・・・ゆっくり・・そうだゆっくりな」

 

!?

 

この声・・

 

驚いて目を覚ますとそこにはルトがいた。

 

「ルト!!・・・会いたかった。探したのよ!今までどこにいたの!私を一人にしないって約束したじゃない!」

 

気づいたらルトの腕の中にいた。

 

「シリーン?まさか・・お前記憶が・・そうか」

 

私の中で過去と現在が一瞬で交じり合った瞬間、密偵だった間のことも、出会った人々のことも全て消え去った。9年の別離も彼が王であることも全て・・

 

記憶の中の若々しいルトが現在のルトと重なりあい違和感なく受け入れていた。