ルトは私にとってこの世で一番大切で愛しい方だった。

 

「シリーン・・・無事でよかった。ここは危険だと言っただろう!このじゃじゃ馬め」

 

 

泥だらけの私を抱きしめるルトの服も泥まみれだったけれど二人で顔を突き合わせて笑いあう。

 

その瞬間全てのわだかまりが解けて消え去った。

 

いいわ・・迎えに来てくれたんですもの、許してあげる。

 

 

残念だけど泥で汚れて絡まった腰までの長さの自慢の艶やかな髪はナイフで切ってしまったわ。少しだけ身が軽くなれたわね。

 

歩けそうになかったからルトに抱き上げてもらいラクダを伴い共にオアシスを目指した。

 

二人きりのオアシスで生まれたままの姿で水浴びをした。

 

私の裸を眩しそうに見る彼の眼差しは熱を帯びていて、私自身彼の逞しい裸体を前に胸がきゅんっと高鳴っていた。

 

腰を抱き寄せられてキスされた時私は恋に落ちていた。

 

「愛しているシリーン、お前は『俺だけの女』だ。だから俺の妻になり共にこの広い世界で生きて欲しい」

 

 

それは情熱的なプロポーズだった。

 

水に濡れた私の指にルトが母の形見の指輪をはめてくれてプロポーズされた。

 

「ええ!求婚をお受けします!私も貴方を心から愛しているわルト!」

 

愛する方と身も心も結ばれることができるなんて・・・

 

それは間違いなく幼い頃からの私のただ一つの願いだった。

 

愛するルトが迎えに来てくれて、彼の花嫁になること・・

そしてこの広い世界を共に旅してまわりいつか、ささやかな居を構え彼の子を産み本当の家族になること・・・

 

一人ではけっして叶えられない甘い願望だったが今やその願いは真実の愛と共にもたらされた。

 

ああ・・ルト愛しているわ・・・もう二度と放さないで・・

 

別離なんかなかったはずなのに・・不思議ね

 

それから情熱のおもむくまま抱き合い互いを求めあった。

 

ルトがいっぱい満たしてくれて幸せだったわ。

 

密偵だったことは忘れてしまったけれど、培った技能は全て私の中に備わっていた。それにルトがいればどこだって良かった。

 

砂漠から戻った後、ルトのお母さまの墓前に紹介も兼ね共に参った。

 

母上様・・この指輪を大切に致します・・これからもどうぞ我々の行く末を見守ってください

 

旅支度を整えてシャナーサを去る前のこと、配られた号外によると名君と名高いライザール王の電撃退位と共に長年行方知れずになっていた世継ぎの王子が17年ぶりに民衆の前に姿を見せ王位につくことを宣言したニュースで街は賑わっていた。

 

古き因習に縛られたシャナーサに新しい風が吹くのは大歓迎よ

・・ここには素敵な思い出しかないけれどしばらくは帰らないから・・だから振り返らないわ

 

私の心にあるのはこれから冒険に向かう期待感だけだった。

 

迎えにきてくれたルトと砂漠で一夜を明かし共に見た神々しいまでの朝焼けの色を一生私は忘れない・・それはこれからの二人の未来を祝福するバラ色だった。

 

結婚式も挙げなかったけれどもう私たちは夫婦だから・・

 

生涯連れ添える相手と巡り合えたことはまさに奇跡に等しかった。

 

「シリーン!俺たちならどこでだって生きていける。二人ならな。もう二度とお前を離さない!さあ・・行こう!俺たちの未来が開ける場所へ!!」

 

ルトの顔も輝いていた。私と一緒ね。大好きよ、ルト!これからもずっと貴方についていくわ!

 

「ええ!ルト、二人で幸せになりましょうね!」

 

砂漠の中で見つけた宝石、それは貴方。

 

私たちは運命により出会いそして結ばれた。

 

その愛をこれからも貫くわ。

 

かけがえのない貴方とこれからも力を合わせてともに生きていきます。

 

 

それだけが私の願いであり希望なのだから・・・