その為ならばなりふり構っていられそうにない。
まだハサン様は背後に控えていたけれど率先して己の手でケリをつけたがるライザール様ならば私にもつけいるチャンスはあるわ。
それに先日の酒宴の席でもハサン様に取られまいとされていたし・・もちろんあれが演技でないならだけれど・・
私が密偵だと承知ならば王自ら惑わせて篭絡しようとしてもおかしくはなかった。
疑えばきりがないわ・・幾度も「大人しくしていろ」と念をおされたし、あれが最後通牒なら自らの首を絞めることになりかねない。
あらゆるリスクはあるけれど、このまま引き下がることはできなかった。
不本意だったとしてもまた軟禁されてしまう前にチャンスをものにしなければ・・
チャンスは一度きり・・もし失敗すれば破滅ね
私のデフォルトのスキルは「宿命の女」だけれど、でも燐の皇子様方を手玉に取り駆け引きに勝利して手に入れた魔性のスキル「傾国」を持つ今の私の魅力ならば「難攻不落」なライザール様ですら落とせるはずよ。
もちろんシャナーサを滅ぼす気はないから今回限りでそのスキルは封印するけど。
そうそう、ヴィンス殿下とは「夢幻一夜」で刹那の恋を楽しんだわ。内乱を制圧された殿下が無事王に即位される前夜のことよ。
今のところまだ未使用なのが「良妻賢母」だけどいつか使う時が来るのかしら?密偵を続けるならば必要のないスキルに思えたけれど、仕事と家庭を両立できるなら魅力的よね。
生まれ持ったスキルを見極めてくださった店主様のお話しでは「宿命の女」は愛の力で対極にある最上位のスキル「運命の女」に変化するらしいけど。
・・そのためにはまず真実の愛に出会わなければ無理ね。
密偵の私がそんな相手と出会えれば・・・だけどね。
スキルを使用すればそれぞれ効果の異なるシンボルを持つヘナタトゥーとして私の体にまとい発現させることができる優れものだった。
使えば使うほど誘惑は樂になる分カルマも上昇してしまうけどね。
しかも私の精神を高揚させる月の満ち欠けと連動してるから今夜みたいな新月なら威力が弱まり相手の正気を奪わずに済むほどよい誘惑が可能だわ。
「傾国」を満月で使ったら亡国の危機に瀕してしまう闇のスキルだから注意が必要だし周囲の欲望をすべて巻き込むから私自身無事ではすまずに破滅してしまうまさに諸刃の剣だった。
この魔性のスキルさえ無効にできるのは対となる「運命」を持つ伴侶となる男だけだと思うと胸が高鳴る。
効果を発動させるためにガウンの胸元を開きタトゥーを外気に触れさせると驚くほどの効果を意中の異性にもたらすことができた。
ライザール様が欲望に濡れた眼差しで息を飲む。
あら、素敵
オスの顔になったわ・・
「ねえ・・いいでしょう?あんなことのあとですもの、私だって怖いですわ」
白々しいかもしれないけれど、でもご一緒したいのは本当よ?
散々お預けをくらった後だけに私自身の欲望も高まっていた。
けれどそれはライザール様も同じだった。欲望と理性がせめぎ合っているのが見て取れた。
さすが難攻不落の男だわ・・このタトゥーに抗うなんて・・
ますます貴方を落としたくなったわ
・・さあ私のものになりなさいライザール・シャナーサ!