――何をためらっているの?誰かに先を越されないうちにさっさと手に入れなさいな
冷静な密偵の部分が囁く。
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折しも今夜は新月だった。
このまま手をこまねいているわけにはいかなかった。
――ライザール王を誘惑する時が来たようね
密偵として女の顔でライザール様に身を寄せると彼が息を飲む気配がした。
「ねえ・・ライザール様・・貴方さえよかったら今夜私がお慰めいたしますわ」
寝台に座すライザール様の耳に甘く囁くと彼がまじまじと私を見た。
「・・・どういう風の吹きまわしだ?・・何を企んでいる?」
相変わらずの用心深さだったが、本性を覆い隠した私を暴くことはできないわよ?
「あら?無粋なことはおっしゃらないで。女が男を欲しがるのに理由なんてないでしょう?それとも欲望は男だけのものだとお思いなの?」
これまでも機会があるたびにボディタッチをしたりしてきたからなにも今回の「誘惑」だけが特別ではないから「好意を寄せられている」とたいがいの男は思うだろうが、
色仕掛けが暗殺未遂に発展した過去を持つだけに、ライザール様は琥珀色の瞳に疑念を滲ませて探るような眼差しで私を見極めようとされた。
そうね、例えるならばそらとぼけてあえて誘惑にのり私の出方を見るか、それともあえてかわすか悩まれているといったところかしら。
無理もないわ・・タイミングとしては最悪ですものね。
未遂に終わった暗殺を完遂させるのが目的と思われてもしかたないわ。
不自然なのは承知な上よ。
恋人同士ならば命の危機に瀕したあとならば自然と寄り添いあえるかもしれないけれど、女を信じないこの方ならば相手を置き去っても不思議はない。そう思うと切ないわね。
それにもし今回の暗殺が「血」を手に入れるためのアプローチならば目的自体はそう変わらないことになってしまうけど・・
でも私ならあんな無粋なことはしないわ・・
この肉体を駆使して甘い夢を見せてあげるもの・・
だから今夜こそ貴方の「血」をいただくわ・・ライザール様
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