エピソード4 特濃蜜罠

 

いかに王とて全てを手にすることは困難だったが、久しぶりに興味深い女に出会った私は彼女を試すことにした。

 

彼女は私の婚約者に成りすました密偵に違いない。

だがそうは思っても糾弾する気は起きなかった。

 

私は退屈していたし手ごたえのある女は久しぶりだったからだ。

 

美しい女だった。抜けるように白い素肌にたわわな胸と肉感的でしなやかな体には溌剌としていて気力がみなぎっていた。

抱き心地は格別だろうな。

 

私を挑発する官能的な眼差しは蜂蜜色に輝き、とおった鼻筋と鮮やかな紅をひいた唇からこぼれる真っ白な歯列は完璧だった。

 

腰までの長さの銀糸のごとき髪は艶やかで良い香りがした。

 

 

私はまだ彼女の本当の名前を知らなかった。ぜひ知りたいが仕事中であるならば絶対に口を割らないであろうことはわかっていた。

 

ならば手法を変えてみてもいいのかもしれない。

 

密偵頭であるライザ・・彼は奇しくも私と同じ名だったために過去に失敗を犯してからは恐れ多いとばかりに名をライザと改めた。

 

普段は水煙草商人に扮しており、実際に商売もしてはいるがその正体は王専属の密偵だった。

 

ライザに命じて彼女を量ることにしたのだ。

私の部屋で酒宴を開き彼女を招待した。

 

着飾った彼女は本当に美しかった。私の前でもけっして物おじすることもなく気品に満ちた女だった。

 

慎重だが機転がよくきくところも気に入っていた。恐らく彼女はそう何度もチャンスが来ないことを身をもって知っているのではないだろうか。

 

ライザには私の気持ちを打ち明けてなかったが、私の女遍歴を知る奴だけに私の好みも把握しているだろう。もちろん余計なことは言わないように釘は刺したがな。

 

私だって若い時はあったし失敗だってあったさ。だがそんな話はけっして楽しいものばかりじゃない。

 

だがその過去があったからこそ今の私があるのだ。

 

彼女はこれまでお目にかかったことのない類の女だった。

我が国では珍しいだろう自由の徒だったのである。

 

手に負えない予感はあったが、だがしつける自信はあった。

私は王だからな。

 

それに彼女が他の女と違うのは秘められた知性にあった。

自分の頭で考えて動く、当然のように聞こえるがそう簡単なことではない。

 

我が国では特にな・・

 

たとえば隣国のルーガンにおいては女は男に絶対服従が義務付けられた時代が長く続いた。今でこそ新しい王の元改革されつつあるが未だに根強く風潮が残っていた。

 

我が国でもさほど変わらず娘は父親に従い嫁しては夫に従う・・それが一般的だ。

 

だからこそ彼女は鮮烈な印象を与えるのだろう。

その自信に満ちた彼女の弱点と欲望はぜひ知りたいところだった。

 

もし彼女が私に仇成す存在なのであれば容赦はしない。