「私もそそっかしくて怪我をしていたので・・傷の手当だけはできるようになりました」

 

「・・・・そうか」

 

言い訳めいた私の言葉にライザール様はただ頷かれた。

 

先ほどの失態を挽回したくて熱くなった結果トイの手当を優先してしまったけれど後悔はなかった。

 

もしかするとライザール様は何か勘付かれているのかもしれない。

だけどそれよりも尋ねたいことがあった。

 

「なぜ・・『私』と結婚を望まれたのです?」

 

半ば答えがわかっていても聞かずにはおれなかった。

 

「・・・野心のためだ」

 

――!!

 

そうよね・・・

 

「ならば貴方に彼らの痛みはわからないでしょうね。・・・・残念です、とても」

 

仮にこの婚儀が成功したとしても、彼が施政者として目指す国づくりの足しになったかどうかはわからなかった。

 

ライザール様は上手く利用される心づもりでしょうけど、王に近づいたアリ家の思惑やレイラ様との仲だって影響するはずだ。

 

それに仮にではなくすでにレイラ様は彼を拒絶してしまったのだから・・

 

これ以上話すことはなかったから立ち去ろうとしたら、突如ライザール様に手を掴まれてしまった。

 

彼の左手首にはまった金でできた蛇を模した腕輪を目にした瞬間、先ほどの毒蛇騒ぎが脳裏をよぎった。

 

食われる!

 

そんな錯覚をしてしまうほど、明確に彼は私を捕まえていた。

力は決して強くないのに振りほどくことはできなかった。

 

「待て・・・私を誘惑する気だったのだろう?」

 

 

やはり先ほどのトイとのやりとりは聞かれていたようだった。

 

方便だったけれどライザール様にお願いする、という意味を誘惑すると解釈できなくもない。

 

そうでなくたって「女」は「男」を無意識に誘惑しているのかもしれない。