毒蛇騒ぎはあったけれど、ライザール王の早急な対処に恐れ入った客人達はあっさりと水に流した。

 

さすが魑魅魍魎の宮廷に巣くうお歴々といったところかしら。

宴もたけなわだけれど、そろそろ失礼した方が良さそうね。

 

今夜は顔合わせだけだったし、部屋に下がっても問題はなかった。

 

後は湯でも浴びてゆっくりしたいものだわ・・

 

カマルの客層は概ね好意的だけれど、常連様がいらしたとしてもここはやはり特殊な場所だった。

 

栄耀栄華が手に入れられる反面堕ちれば地獄を見る場所なのだから。

 

さすがの私も婚約者の立場で初対面のライザール王を誘惑する気はなかった。そこまで非常識な女じゃないわよ。

 

ならさっさと撤収しましょう。

 

先ほどのミスで警戒感を持たれたかもしれない。今は大人しくして様子見した方が良いでしょうね。

 

それに・・・自分でも不思議だけれど・・なんだか無性に彼には嫌われたくなかった。

 

こんな形での出会いを惜しいと感じる自分に驚いてしまう。

 

素敵なアンバーズアイのライザール様はひそやかに私の心に忍び寄り鎌首をもたげた蛇のように私の心臓に巻き付き飲み込もうとしていたのかもしれない。

 

少し冷静になるために距離を取りたかったしそれに毒蛇騒ぎの後だもの、咎められることもないでしょう。

 

「ライザール様、皆さまこれで失礼いたしますわ・・・本日は楽しかったです」

 

退席の挨拶をする私にライザール様も鷹揚に頷かれる。

その顔はすでに冷静なものだった。

 

ひらめき電球

 

だからふと思いついた私は、彼の耳にこそりと耳打ちする。

 

艶めいた仕草に周囲にかすかな動揺が走ったが、若くて美しい婚約者の甘やかな振る舞いは大目に見られた。

 

「ライザール様、先ほどの蛇ですが・・・いただけません?私蛇皮が大好きなの」

 

よりにもよって神聖な蛇の皮をはぐなどと言えば動揺されるかと思ったけれど、ライザール様は面白そうに方眉を上げ、例の不敵な笑みで応じられた。

 

「ほう?なかなか良い趣味だ・・・いいだろう、量が少ないが腕輪くらいなら作れるだろう。そなたの腕は細いからな・・」

 

そういうや否やライザール様は私の手を取り口づけられた。

 

ドキドキ

 

あら、素敵。やっぱりもう少し滞在しましょう。

 

私も女だから貢がれるのは好きだったけれど、茶番で死んだ蛇を今宵の思い出に手元に置きたかったのだ。