だって密偵は天職ですもの。
でも信条を自ら破ってしまえるくらい恋って素敵なものだった。
こんな気持ちになったのはたぶん初めてだった。
身も心も結ばれたいと願える人と出会うなんて、私にそんな幸運が訪れるなんて思わなかった。
きっかけがきっかけだから・・ね
クルルッ
せっつくように鳥が鳴く。
あら、まだいたのね・・はあい
ライザール様の筆記用具をお借りして手紙をしたためた私は鳥の足に結び空へと放す。
しばらく空を伺っていたが追跡者の気配はなかった。
ライザール様が鷹を使い鳥の後を追跡していたことはすでに気づいていた。
本拠地がカマルだと知れてしまった以上、隠す意味はないわね。
だからこそ店主様も戻るように連絡を寄越したのだろう。
そりゃあね、舞妖妃がいないショーじゃ盛り上がらなくて売り上げに響くでしょうし、きっとそれだけではなくて宿代の支払いが痛かったのでしょうね。
私はライザール様の頬に手を添えてキスをした。
王様はお目覚めにならないけれど、もう戻らなくては
服を着て手鏡を見ながら化粧を直す。ライザール様のお部屋は水場があるし実はお泊りセットも置かせてもらっているの。
紅をひいた唇は笑みをかたどっていた。
心が満たされているからかしら
こんな穏やかな朝を迎える日が来るなんて・・
貴方が想いを返してくださったからよ
愛していると言ったことは一度もなかったけれど・・
私の眼差しや、仕草や・・表情を彼は読み解いてくれた。
もともと明察力のある方だけれど、それだけじゃなくてその心で私を理解しようとしてくださったからだわ