ならばこの謎も解いてくださるかしら?
寝台の枕元に口紅を置く。
コーラルレッドの口紅よ・・・私の好きな色
彼が口紅の謎を解いてくれたなら・・・やはり出会いは運命だったのだと思える気がした。
回廊から見上げた朝焼けの空はとても神々しくてこの時間が私は好き・・
普段はまだ寝ている時間だけれど、彼を起こしたくなくてそのまま出てきてしまった。
目覚めたライザール様は誰もいない隣を見てがっかりされるだろうか?
私を薄情な女と思うかもしれないわね。
でも生憎と私自身寝顔を見られるのはあまり好きじゃないの・・
だから少しだけライザール様の気持ちがわかる気がした。
まああの方の場合、恥ずかしいからなんて理由ではないでしょうけど・・
隣で眠る相手から死が忍び寄るなんて・・悲しすぎるわ
用心深いあの方が無防備に安眠できる日はくるのだろうか?
お忙しい方だけに睡眠くらいせめて十分にとっていただきたいけれど・・
ライザール様が全ての夜を私にくださるなら安眠くらい保障するのに
そんなとりとめのないことを考えながら帰路につく。
いつからかカマルよりライザール様のお部屋にいる時間が長くなってしまった。
店主様の血を採る口実はあったけれどそれがもはや建前でしかないことは自分が一番よくわかっていた。
店主様は苦笑されたけれどなにも言わなかった。
『全ては君が決めることじゃないかな・・そうだろう?シリーン』
そうなのだろうか?ライザール様が決めることではなくて?
私に選ぶ権利なんてあるというの?
確かに私の人生だから権利はあるだろう。
でも一人で歩いてきた道の先で人生の伴侶と思えるような方と出会ってしまったら・・・
彼の人生と交錯してしまった時、王である彼と密偵である私のどちらが決めるのだろうか。