いかに悩ましくても古巣についてしまった以上、気持ちを切り替えるしかなかった。
ショーは夜だからしばらく休ませてもらいましょう。
静まり返った廊下を部屋に向かう途中、ジェミルに遭遇した。
『・・・朝帰りか?』
彼は相変わらず不愛想で何も言わなかったけれど、目がそう物語っていた。
「おはよう、ジェミル・・・早いのね」
こだわりなく返して微笑むと、ジェミルが露骨に眉をしかめた。
あら・・機嫌悪そうね
ジェミルは店主様同様私の家族だったから、私が寝ないと決めた男の一人だった。
以前、店主様に言われたルールだからだ。
『いいかい、シリーン。ジェミルと寝てはいけないよ。家族で居たいならその一線を決して超えてはいけない。でなければきっと互いの不幸になるからね』
店主様の言葉は正しかった。
奔放に男達と愉しむ私をジェミルは不快そうに見ていたが、口出しすることはなかった。
姉弟のような関係が心地よかったから私も彼との距離を保っていた。
そして今に至る。
ジェミルに関しては謎が多いけれど、詮索する気はおきなかった。
私だってジェミルには知られたくないことや言えないことはある。
ライザール様のこともジェミルは口出さなかったけれど、私の様子から親密な関係を維持していることに気づいている。
彼は賢い子だから「店主様の血のため」なんて欺瞞に惑わされたりしないだろう。
襲撃に手を貸してもらった時はそんなことになるなんてお互いに思わなかったけれどね。
『言っても無駄だ』
とでも言うかのように唇を引き結んだままジェミルは立ち去ってしまった。
――貴方も恋をすればわかるわ・・この辛い気持ち・・・
もう不愛想なんだから・・そういえばあの子いくつになったのかしら?・・・私と4つ違いだから19歳?・・・それにしては奥手よね
ジェミルはどんなタイプが好きなのかしら?
う、想像がつかないわね・・悪い女に引っかからないといいけれど
――まさかあの年で経験ない・・なんてことないわよね?
さあ・・寝ましょう。睡眠不足はお肌の大敵なんだから・・