ひと眠りした後、午後からバザールまで足を延ばした。

 

屋台で買い食いしながらぷらぷらと市を見て回る。

 

ドライフルーツをご褒美用に買った。杏子にいちじくにマンゴーに・・それとデーツもいるわね。自然とライザール様の好物も選んでしまい笑みがこぼれた。

 

ライザール様、口紅の謎を解いてくださるかしら?

 

ドライフルーツは好きよ。踊るとお腹が空くからね。でも太るのは嫌だから少しだけ甘味をとることをしてるの。

 

必要なものをいくつか見繕っていたら、誰かがぶつかってきた。

 

 

「誰かその餓鬼を捕まえてくれ~!!」

 

声に驚き見ると、尻餅をついた少年の姿があった。

 

あら、この子?

 

「トイじゃない!大丈夫?」

 

声をかけるとびくりと少年が顔を上げた。

 

「あんた・・シリーン?」

 

ぶつかったのは知り合いの子だった。

 

以前王宮に潜入したおり、宮殿まで乗り込み王に窮状を訴えていたトイと知り合ったのだ。

 

トイの話では町では年頃の少女達が失踪しているという話だった。

ライザール様も関心を示されたけれど、私自身気にかかっていた。

 

それからしばらくして再び町でトイを見かけるようになり、トイの姉アスラとも知り合いになった。

 

そしてついにそのアスラも失踪してしまったのだった。

知り合いの娘だけに放っておけなかった。

 

私は密偵だから裏社会には通じているし、なんとか状況も把握できた。

 

依頼を受けてから動くのが本来だけれど、兵士に殴られた幼い子をよそに王を誘惑した罪悪感を消したくて彼に手を貸すことにした。

 

失踪理由は様々だけれど彼の姉のアスラは人さらいに誘拐されてしまったのだ。

 

残念ながらこの国ではままあることだった。

 

アスラはまだ17歳だったけれどこの国の闇が彼女を蝕もうとしていた。

 

どれだけライザール様が手を尽くされようと光が遍く行き届くことはない。

 

むしろ光輝が強ければ強いほど闇は一層濃さを増した。