やがてショーが終わり舞台のそでにはけた私は、ガウンとベールを身に着けるとライザール様の元へと向かった。
礼を述べると彼は逡巡された様子だった。
懐を気にされていたから、もしかすると口紅を返すタイミングをはかっていられたのかもしれない。
でもダメ・・・お願いだからそんなつれないことなさらないで
血を得る約束を交わしたのはあくまでも密偵としての私だった。
でも女として貴方と少しでも繋がっていたいの・・だからお願い。
それは私にとってはただの口紅ではないのよ?
心の底に押し込めたはずの私の気持ちだった。
部屋に案内した時、床の上に散らばった服を見られてしまい動揺してしまった。
もう!ジェミルったらまた私の服を勝手に持ってったのね?
趣味があってしまうのか、わざわざお気に入りの服を持っていかれるたびにため息がでてしまう。
あの子ったらあんな格好で何をしているのかしら?心配だわ・・・
ライザール様に相談しようかとも思ったけれどまた嫉妬されても面倒だからやめておくことにした。
好きな方に他の男の話なんて厳禁だわ。気を引く必要なんてないもの。この方は常に私を気にかけてくださっているのだから。
とりあえずお茶をお出ししてから毒見も兼ねて干し杏子をひとつ摘まむ。
は~疲れた体に染みるわ
ライザール様の反応を窺いながら、着替えるために衝立へと回り込む。
この衝立はアジアン風で気に入っているの。
燐帝国産なのよね。殿方の目を楽しませる仕掛けになっているのだけれどお気に召した?
竹の枠に薄紙が貼られていて、花の意匠が盛り込まれていて、光が当たったらシルエットが浮かび上がるように設計されているの。
白娘子というお話がイメージされているらしいわ。
影絵の主役は私よ。
それにしても考えてみれば「恋人」を部屋に招いたなんて初めてだった。
私の部屋にライザール様がいるなんて信じられる?