「私はお前が羨ましいぞ?確かにお前の言う通り血がつながっているかどうかは重要ではない。大切に想える家族がいるというのは素晴らしいことだと私も思う。
それに・・あの店主はかなり変わった男のようだし、結婚するもしないもお前の気持ち次第だろう?なかなかわが国では稀有な存在だ」
私の言葉にシリーンは微かに唇を噛みしめた。その双眸は憐憫の情に満ちていた。
恐らく決められた人生を歩まねばならぬ私を想ってのことだろう。
彼女はなんというか思いのほか優しい女なのだ。
私の立場であるならばそんな弱音は許されないのだが、どうにもならなくても心に寄り添ってくれる優しさは彼女ならではだった。
相手の立場に立ちものを見るからこそだろう。彼女は国民の一人として様々なことを知らしめてくれる貴重な存在であったが、女としても滅多にない心の広い女だった。
そんな彼女だから私は・・・
店の入り口で別れる直前、ふいにシリーンが抱きついてきたかと思うと、キスされた。
彼女からキスをねだるとは珍しい。仄かな香りに包まれる優しくも情熱的なキスだった。
名残惜し気に身を離した彼女は艶然と笑みながら言った。
「口紅は貴方がもってらして・・赤い糸の代わりですわ。また必ず会いにゆきますから・・・会いに来てくださってありがとう、一度見ていただきたかったの」
運命の男女を繋ぐという赤い糸か・・・なるほど
それが謎掛けの答えだったわけだ。
ふんぎりがついたら・・・・か。先ほどの店主の言葉がよぎる。
それが何を意味するのか分からぬわけではないが随分ふっかけられたものだ。
宮廷に侍る大多数の者たちにとって王妃の役割はただ世継ぎを産むことだったが、私はそうは思わない。
一国の運営を担うのは王妃も同じだった。愚鈍な者には務まるはずがない。
今となっては血筋だけが良い貴族の生娘より世間を知るシリーンの方が遥かに私にとって価値があった。