廊下に出ると待っていたのはシリーンだった。さすがにガウンを羽織っていた。

 

「起きたのか?眠っていたようなので起こさなかったのだが」

 

目覚めて私がいないことを知り様子を窺いにきたのだろう。

 

「起こしてくださればいいのに・・ごめんなさい、部屋に招いておきながら」

 

当初こそ逢瀬の後はさっさと帰っていたシリーンだったが、寝台で抱き合ったあと、泊まることも増えた。だから寝顔を見たのは今更だったが、なんとなく彼女の気分もわからないではない。

 

あの部屋に店主やアサシン以外の男が訪れるのかは知らないが、男の気配はなかったし滅多に来客もないように見受けられた。

 

それだけに私の訪問は予想外の出来事だったのだろう。

普段隙のない彼女だけに、もし事前に私の訪問を知れば完璧なもてなしをしたであろうから。

 

だが彼女は私を拒まなかったし、普段通りの装いに見えた。

だからより睡魔に負け寝てしまったのが残念だったのだろう。

 

「いや・・こちらが急に押し掛けたのだ。私こそすまない」

 

「あら?庶民の私めに王が謝罪するのですか?」

 

相手が誰であろうと礼は心得ているつもりだから驚かれたのは心外だったが、彼女も会話を楽しんでいるだけのようだ。

 

 

彼女の案内で入り口に向かう道すがら店主のことを尋ねた。

 

「お前は随分大事にされているようだが、あの者たちはどのような存在なのだ?」

 

半ば答えを予想しながら尋ねると、シリーンはどこか誇らしげに応えてくれた。

 

「ジェミルにも会ったのですね?いつかの無礼はお許しください、私にとってはジェミルも店主様も大切な家族ですから」

 

――家族・・・か

 

そんなもの私にいただろうか?

 

母は早くに身罷り、父王も名君ではあったが私にとっては父とは呼べない存在でしかなかった。

 

「だが血のつながりはないのだろう?」

 

自分で言いながら違和感を覚えていた。血筋が私の人生を縛り、血の繋がった者たちは他人同然だった。

 

それでも市中で普通の親子を見るたびに羨ましいと思う自分がいた。

 

愛する妻を娶り血を分けた我が子を持てる日などはたしてくるのだろうか?

 

「血のつながりはそれほど重要でしょうか?確かに血のつながりはありませんが、私にとってあの二人は家族ですわ」

 

 

ああ、やはり彼女にも大切な存在がいるのだ。

そんな彼女を眩しく思う。