このお話は蜜罠(シリーン視点)に対するライザール視点のお話です。時系列ではなくエピソードの愛の欠片から構成されてます。
エピソード1
私の血をもらう代わりに私に抱かれるシリーンはなんというか健気な女だった。
性的に興奮した男の血が不治の病に効くなどと聞いたこともないが、彼女の雇い主である店主は錬金術師の類なのだろうか。
だが少なくともシリーンはその理屈を信じて寝るたびに私の血を採取していた。
まさに働き蜂そのものだった。
他の男の為に私に犠牲を強いる、それを忌々しく思いながらも、
彼女を拒まなかったのはそれだけ魅惑的な女だったからだ。
艶めいた魅惑的なあだ花のごとき女が尽くすのはどのような男なのか。
後日カマルを訪れて、「店主」にも会う機会があったが、それはまた別の話だ。
今回は密偵であった彼女との馴れ初めとなぜ妻に選んだのかを語ろうと思う。
シリーンは血を手に入れるために過去にも様々な男達と関係をもっていたようだ。
あの技巧と手管はそのたまものだった。
多くの男達に磨かれた彼女はまだ若い小娘とは思えぬ円熟した色香と妖艶さとあどけなさを併せ持った女だった。
しかも彼女が相手をした男たちは私も知る各国の名だたる王子たちばかりだというから驚きだ。
そんな女を妻に迎えるなど酔狂だと思う者もいるかもしれない。
気まぐれで奔放、まるで女豹のごとき彼女を気づいたら愛おしく思うようになっていた。元来私が狩人の気質だからだろうか。
私に悟られまいと本心を覆い隠して尚、溢れ出る人柄の良さはまさに美徳だった。彼女もまたこのシャナーサを愛していたし、国の実情を知り憂えていた。
だがそれらはもちろん後になってわかったことであり、当時の私はまだ彼女の本性を判じかねていたのだ。
なぜなら私と彼女の関係は常に危ういものであり、なによりも彼女は婚約者であるレイラの逃亡の手助けをした張本人だったからだ。
アリ家との政略結婚は大臣達と対立していた私にとってまさに起死回生の一手となるはずだった。
だが親の都合などお構いなしで他に男ができてしまったレイラは出奔してしまい、私の体面に平然と泥を塗っただけではなく、逃亡の時間稼ぎの為にシリーンを雇った。
王族の血を欲していた「店主」はその機会を逃さずシリーンに偽の婚約者になり王宮に潜入する任を与えたのだ。
それが私とシリーンの出会いだ。
店主曰くシリーンが心から欲した王族の男の血でなければ効果は出ぬらしい。
だが私からすれば身を削り店主に尽くすシリーンへの奴なりの親心だったのかもしれないとも思える。