もしシリーンが非情な女だったら恐らく私の命はなかっただろうが、彼女はとても甘い女だった。
女に拘束され辱めを受けたのは初めてだったが、なによりも心を占めたのは無念さだった。
志半ばで女狐の姦計にはまり命を落とすとは。
おのれのうかつさを悔やみつつ死すら覚悟した私を、だが彼女は誘惑した。
巧みに私に触れ欲情を誘う彼女だったが、その双眸は月の様に静かだった。
まるで癒すようにあやすように私を抱き寄せる彼女の真意はうかがい知れなかった。
一方的に彼女を凌辱した私に対する仕返しなのだろうと思った。
鞭で打たれ、自由を封じられて受ける責め苦は私のプライドをやりこめるのに十分だった。
だがそれは私が女達にしてきた仕打ちでもあった。
私の行為は女性に対する不信からのものだったが、確かに彼女達の気持ちを軽視していたかもしれない。
だが反省する暇もなくシリーンは次なる手に出た。
本能のまま私の上で快楽を貪る彼女は美しかった。だがまだまだ可愛いものだ。
たとえ拘束されていようと容赦ない私の追撃に彼女はあっさりと陥落してしまった。
美女を思いのまま征服する達成感や欲望はあっても私の心は冷めたままだった。
僅かとはいえ私の血を採取した時は、シリーンに対する怒りと憎しみを感じた。
用のなくなった私をどうするつもりか問いながら彼女が油断する瞬間を私は冷静にはかっていた。
しかし予想外なことに彼女はあっさりと私を解放した。
愚かな女だと思った。熟練の密偵が情に流されるとは信じがたかったが、覗き込んだ彼女の双眸はまるで蜜の様に黄金色に輝き私を誘っていた。
紅をさしたその蠱惑的な魔性の眼差しを私は拒めなかった。
蜂蜜の入った壺に指を突っ込み、指にまとわりつく黄金の蜜を舐めずにはいられない少年のように甘美な誘惑に私は溺れた。
熱を発ししとどに濡れた柔肌の彼女は芳香を放つあだ花そのものだった。
乱れて尚美しい、雄の欲望をそそる女だった。
さきほどまで私を弄び奔放だったのが嘘のような従順さで私の与える快楽と手管に酔いしれる姿は可愛げさえあった。
だがもちろん女の媚に騙されるほど初心ではなかった。