問題は男としての評価の方だった。私の顔と体と技巧は気に入ったようだ。
性格においては用心深く心を許さない私への理解は示しつつも、いたく心配していたようだ。
「人間不信なのが玉に瑕ね」と言われたことがあった。
女と言っても千差万別だし十把一絡げにするのは心外だと。
だがそれもまた彼女の体験談に基づいていた。
彼女も少し前まで「男は皆同じ」と思っていたらしい。
男の欲をそそる美貌と体を持つ女だけに、様々な男が彼女を欲したが愛を交わしたことは一度もなかったそうだ。
刹那の逢瀬を愉しんでいた彼女が初めて恋した相手が私だった。
初めて愛を知った彼女は初心な小娘のように怯えていた。
私の抱えたトラウマに気づき己と重ね合わせたシリーンは、先入観で否定するのもされるのも辛いと悟ったのだった。
私を知りたいと望み歩み寄ることができたシリーンを立派だと思う。
婚約者ではなくなってしまったがそれからもシリーンはふらりとやってきては私に抱かれた。
慣れた女だけに恥じらうこともなかったし、口説く必要もなかったが私にとってもその方が都合が良かった。
仕事で溜まった鬱憤もはらせるからな。
あれだけの美女を寝台に連れ込もうと思えばそれなりに散財しなければふつうは無理だろう。
これまでどれだけふっかけられたことか。
しかも血の鮮度を維持するために彼女はすぐに帰ってしまう、そんな日々が私の日常になってしまうほど忙しい私向きの女だった。
だが確実に灰色の王宮生活にシリーンは彩を添えてくれた。
王である私に宝石をねだることもない女は初めてだった。艶やかな彼女の白い素肌には紫紺のテロメアーナがよく映える。
自分の女を飾り立てたい欲求は私にもある。
もちろん脱がすのは後の醍醐味だ。
財政を立て直すのに必死だったあまり吝嗇家だと思われがちだが、私は別にケチではないし惚れた女に宝石の一つや二つねだられずとも贈るのだが、
もちろんあくまでも良識の範囲内だがな。
だから彼女の反応を見て見たくなった。少なくとも私には地位と財産があるからそれだって魅力の一つだろう?
男の下心を見透かして受け取らない女も中にはいるしそれはそれで美徳ではあるのだができればぜひ受け取って欲しいものだ。
惚れた女の為にあつらえたものを返されたくはないな。
「たまには宝石でも買ってやろう」
試すように唆した私をシリーンはだが諫めたのだ。
「お気持ちだけで十分よ。殿方に貢がれるのは悪くはないけれど、貴方は王でしょう?私なんかに宝石を贈るなら貧しい民に還元してくださいな」
貢がれ上手ななかなか心得た女だった。
私好みの回答をことさら意識したわけでもなく、恐らく彼女の本心だった。