恋人だった時も結婚した後も彼女にはネックレスをはじめさまざな贈り物をしたが、彼女が一番喜んだのは愛を誓った婚約指輪だった。
だが彼女はもっと素晴らしいものを私に返してくれた。
私が何よりも欲していたものを・・・
王である以上、無駄に世継ぎができても困るので行為には大層気を使ってきたが征服欲をそそるシリーンにはつい魔が差してしまったのだが、私に隠れてシリーンは店主からもらった避妊薬を飲んでいたようだった。
知った時は怒りを感じると同時に割り切れない自分に驚いたものだ。
「なによ、文句ある?貴方だって困るのでしょう?」
冷ややかな私の視線をさらりと流すシリーンの本心はわからなかった。
そのくせ気づいたら彼女はきまぐれにやってきては私の部屋で寛ぐようになりすっかり風景の一部になってしまっていた。
部屋に戻るとある時は私の寝台で寝ていたり、ある時は書棚からお気に入りの本を探して寝台に寝ころび読書をしていた。
そしてある時はすでに姿はなく残り香だけの時もあった。
構いすぎると鬱陶しがるくせに放っておくと構って欲しいとばかりに身を寄せてくる本当に気まぐれな猫のような女だった。
まあ私は嫌いじゃないが。
初めの頃はさっさと帰っていたシリーンだったが、半年も過ぎたころには用もないのに顔を出すようになっていた。
血を採るわけでもなくただ私の部屋でぼんやりと過ごす彼女の変化に気づいた時の気持ちは言葉にできない。
「なんでかしら?なんだか落ち着くの・・・いつの間にかここが私の居場所になってたみたい・・ふふ、私がこんなことを言うなんて・・変化ってするのね心も体も・・ね」
寝台で億劫そうに足を抱え込むように頬を寄せたままどこか謎めいた微笑を浮かべたシリーンの言葉に胸を衝かれる。
それはささやかな変化でしかなかったが私たちの関係を大きく揺るがすものでもあった。
――まさか
シリーンは妊娠してしまったのだ。
私の子だという確信はあった。彼女は確かに奔放な女だったが、私を裏切ったことは一度もなかった。不安がなかったわけではないが、女が惚れているかくらいはわかる。
いつからか私は彼女だけは信じていた。
無責任な関係は確かに都合よかったがすでにそれだけでは物足りなくなっていた。
きっかけがなかったのにきかっけができてしまったのだ。