私はシリーンを心から愛しているし、家族になりたいと望んだのは彼女だけだった。

 

だからもう一度求婚するつもりだった。これがおそらく最後のチャンスだった。

 

もし彼女がすでに愛の結晶を喪失してしまったら・・・そう思うと心が痛い。

 

だがそれも含めて彼女の決断を尊重するつもりだった。

 

王とはそれだけ自由もなく孤独なものだ。

 

束の間であったとしても愛を得ることができて幸せだった。

 

シリーンには幸せになって欲しかった。

私がいなくとも彼女が幸せになれるのならば身を引いても構わなかった。

 

女として幸せにできずとも、国民の一人として愛することはできる。

 

『俺は彼女に欲望は感じたが愛は感じなかった。だがそれでも彼女はイイ女だった。幸せになる権利はあると思う。だからひとまず貴方に託すが、彼女の願いを尊重してやって欲しい』

 

城を出る前ヴィンス王が心の内を打ち明けてくれた。

 

だが恐らく本心ではない。シリーンに惹かれたのだろうが、彼女の気持ちがわからずに決め手がなかったのだろう。

 

私も随分長いことそうだったからわかるつもりだ。

 

『どうやら俺が知る彼女と貴方が愛した彼女はまったく違うようだ。月の様に異なる面があるのだろう。まったく・・・貴方が羨ましい、ライザール王』

 

ため息と共にそう語るヴィンス王に私は笑みを添えて応える。

 

『ご存じないようだが夜の砂漠で見る月は美しい。焦がれてやまないものだ』

 

私の言葉にヴィンス王も笑む。

 

『ならば俺は湖面に映る月だけで満足するとしよう』

 

密偵をしているシリーンは生き生きとしていたし、人の役に立つことを誇りに思っていた。

 

王子達との束の間のアバンチュールは単なる気晴らしだったはずだ。

 

だが私との出会いは彼女の信条を覆してしまうものだった。

私にのめり込み歯止めが利かなくなって呆然となったはずだ。

 

もしあの日、私が別れを告げれば彼女は自分を見失わずに済んだはずだった。

 

だが私の本気を知り、自分が招いてしまった結果を受け入れられなかったシリーンは逃げ出した。

 

私を惚れさせたくせして逃げ出すとは・・まったく往生際の悪い女だった。

 

ならば責任をとり迎えにいくしかないではないか。

 

なによりも私自身もう一度彼女の笑顔を見たかった。

私が居なくても彼女が微笑えめるならば潔く身を引こう。

 

ヴィンス王の話ではシリーンはイベリスの丘の麓に宿をとっているらしい。

 

だから何度か私もイベリスの丘に出向いてみたがシリーンの姿はなかった。