招かれざる者が現れたのは早朝だった。

 

私の寝台で寄り添って眠るシリーンの姿を前に凍り付くジェミルの気配にいち早く気づいた私は眼差しで奴を縫い留める。

 

唇に指を寄せ黙るように示す。朝っぱらから騒がれるのは面倒だった。

 

「遠慮してもらおうか小僧。生憎だがシリーンは私を選んだ。私の女になった以上、二度と触れることは許さない」

 

断言するとサッとジェミルが蒼白になる。もしかすると奴なりにシリーンの気持ちに気づいていたのかもしれない。女が本気かどうかすらわからないならどうしようもない。未熟な男にシリーンは渡すわけにはいかなかった。

 

奴の焼けつくような視線は私の隣で穏やかに眠るシリーンの寝顔に注がれているようだった。

 

いくら奴が駄々をこねようとその事実は覆せないだろう。

 

シリーンが私を選んだことを悟り唇を噛みしめたジェミルだったが、舌打ちしたかと思ったらさっさと踵を返した。

 

「ちっ・・二度とここには戻らねえ・・てめシリーンを泣かせんなよ?」

 

物騒な殺気を発したが一瞬で消し去るとジェミルは出て行ってしまった。

 

まったく最後まで素直じゃない小僧だった。

 

そういえば奴は夢の中で王子だったような?

だがまあいい・・獅子は我が子を千尋の谷に落とすというし奴ならば大丈夫だろう。王としての責務を担う覚悟があるのなら王位を譲るのは構わないがシリーンは渡せない。

 

隣を見るとよほど夢見がいいのか微笑みを浮かべて眠るシリーンの寝顔は私の闇を払ってくれるものだった。

 

 

「これからもずっと私の傍にいてくれ・・・愛しているシリーン」

 

感謝を込めて額に口づけた私もまた目をつむる。

 

今度こそ私も良い夢を見られそうだった。