ライザール王は近隣諸国にも名君と評判の高い王だったけれど、他国の王宮とさほどかわらず官は腐敗していたし、不正が横行していた。
身分差も貧富の差も歴然とあって、少数の貴族たちは大多数の平民の苦難なんて知る由もなかった。
生まれ落ちた場所がその後の人生もすべて決めてしまう。どれだけ才能があってもなにも変わらないし夢見ることも許されない。
こんな国に住みたいと思う?
燐帝国も後宮は腐敗していたけれど民は平穏に暮らしていたのに・・
もし皇驪様が私との情事に溺れて民を裏切ればきっとその報いはあるわ。
それは他人ごとではけっしてなかったし我が国の現状がこれほどひどいなんて情けなくてたまらなかった。
だからこそ唯一まともな王の性格に多少問題があっても気にはならなかった。
でも今回の任務は政略的なものでもなくて、店主様のためだった。
治療薬のために性的に興奮したライザール王の血を採るのがミッションだった。
いくら店主様のためとはいえ、兵士に殴られて脅される飢えた子供を見て見ぬふりして、王を誘惑しないといけないなんて・・・
そんな気分になれるはずないじゃない。
少しだけ自分が密偵でしかないことが恥ずかしかったわ。
なにかもっと他にできることがあるはずなのに
・・とても歯がゆかった。
でもそれはライザール王も同じだった。
誰よりも国の現状を憂えていた彼は、横暴な兵士を諫め窮状を訴える子らの話に真剣に耳を傾けてくれた。
やはり彼は公平な方で好感が持てた。
あんな男が王だなんて
・・この国もまだまだ捨てたものじゃないわね