すると一人の兵が私の後をつかず離れずついて来た。

 

ベールを目深にかぶる姿にドキリとする。

兵の中には日差し除けや表情を読まれないようにベールを身に着けた者もいるようだ。

 

・・・まさかね。ジェミルのはずないもの・・

 

配置換えになったばかりかもしくは新兵なのかもしれない。

護衛と監視を兼ねているのだろう。でもそれはこちらも同じだった。

 

嫌だわ・・いつのまにかこんなに用心深くなっていたなんて・・

 

ダガーはライザール様から返して頂いたから、身を守る術はあるけれどこんな状況がずっと続くのだと思えば、一見華やかな宮廷生活というものも考え物だった。

 

愛する方が命を狙われてしまうなんて・・覚悟していたとはいえショックだった。

 

今回はたまたま運が良かっただけだった。

 

ライザール様が用心深く疑り深くなってしまうのも無理もないかもしれない。

 

本当にこの場所は平穏さとは無縁なんだわ・・

 

けれど自分から望んだわけではなくてももうここは私の居場所なのだ。

 

実家に居た時はいかに大切にされていたか実感してしまう。

私って本当に世間知らずだったのね・・レイラ様って随分過保護だったんだわ

 

いきなり添い嫁になるよう言われた時はショックだったけれど・・

たぶんレイラ様なりに私を託せる相手を見極めていたのかもしれない。

 

己を律し感情をコントロールして磨き上げ数々の英才教育を受けていたのだと改めて気づく。

 

まさかその相手が王だなんて・・・随分買われたものね。

 

ライザール様は確かに頑迷な方ではあったけれど、それは彼がそれだけの重責を担っておられるからだ。

 

あの方は表面を取り繕うのが上手いけれど複雑な内面をお持ちの方だった。

 

滅多な方では真に彼に寄り添うことはできないだろう。

 

けれど思いがけず私は選ばれてしまった。

 

レイラ様の相手をしてきたせいかさほどストレスは感じなかったけれど、私を溺愛してくださったレイラ様と違いライザール様は王で絶大な権力を持った方だから彼がその気になれば簡単に私の命を奪えるのだと思えばやはり冷やりとする。

 

そんな方の妻になり信頼関係を築けるか不安はあった

 

簡単には心を許してくださらなかったけれど、それでもあの方の国や民を想う情熱は尊敬できたし結局嫌いにはなれなかった。

 

いつの間にかほだされてしまったのよね。でも恋ってそんなものでしょ?

 

だからこれからも私はあの方を信じて付いていくわ