「は~そろそろあがりましょ?お肌のお手入れタイムよ」
気を取り直すように言うカラッとした態度のレイラ様に促されて湯から上がった後は金で唐草模様を施した鮮やかな紫紺のタイルに寝そべりながら蜂蜜色のオイルで肌の手入れをする。
脱水しないように侍女が用意したヨーグルトと塩と水を混ぜた冷えたアイラーンで渇きを癒す。私はこれが好き。口に含むと仄かな塩味が沁みた。たぶん今日は汗をいっぱいかいたからでしょうね。
カマルに襲われた後は幸い目立たなかったことに安堵しながら慣れない狩りで疲れた手足を伸びの良い上質なオイルでゆっくりとマッサージしながら気を静める。
恋は心だけでするものだが愛はもっと深く思慮深さも必要なのかもしれない。
ライザール様と良好な関係を維持するためには気持ちだけに流されてはならないのだと己を戒める。
あの方は王なのだから。私は王妃ではないけれど、彼の寵愛を受ける者として自覚が足りなかったかもしれない。
王の寵を受けた私に近づく者達の思惑にけっして惑わされてはならないのだ。
暗殺者が横行する宮廷において無防備さは命とりだったし、私の失態でライザール様やレイラ様の足を引っ張るわけにはいかなかった。