だけど中途半端にくすぶったままだったライザール様の本気を思い知る事件が起きてしまった。
ことの発端はジェミルの失踪だった。それから届いた店主様からの脅迫状が私を絶望に突き落としたのだ。
手紙にはジェミルの安全と引き換えにライザール王の血を手に入れるように記されていた。
ジェミルが店主様に囚われてしまったなんて・・・
ずっと信じてきた店主様の本性は私を打ちのめすのに十分なものだった。
ジェミルは無事なの!?
長年にわたり店主様の暗示にかかっていた私にはその言葉を疑うことすらできなかった。証拠として添えられていた髪はジェミルのものとしか思えなかった。
ライザール様の血を手に入れなきゃっ
ジェミルの命を守るためなら、この身など惜しくはなかった私はジェミルを救うためにライザール様を誘惑するしかなかった。
これまで頑なに拒んできたのに、まさかこんな形で彼に抱かれなきゃならないなんて・・・
ライザール様は私を欲していたけれど、用心深くもある彼が罠だと知りながらその気になるかどうかもわからなかった。
でも構わないわ・・・だって私がジェミルにしてあげられることなんてそれしかないんだもの
気持ちに余裕なんてないまま、ライザール様の部屋に向かう私の心を占めるのは焦燥感だけだった。
これから私のすることがジェミルに対するひどい裏切り行為だなんて気づかないほど平常心ではなかった。