だから私はこの場所でライザール様と共に生きていく・・これからも・・
そんな私の元に匿名の手紙が届いたのは婚儀の当日だった。
――禍根は消えた、幸せを祈る
手紙には私達だけが知る暗号で記されていた。
――ジェミル!!生きていたのね!
安否を知らせてくれたことに感謝することしかできなかった。
短い文面だったがおそらくジェミルが店主様を手にかけたのだろう。店主様が暗殺者としてのジェミルの最後の犠牲者であることを願わずにいられない。
叶うことなら彼にはそれ以外の道を模索してほしかった。
でもジェミルと道をたがえた私に心配できるのはそこまでだった。
ジェミルにはジェミルの、私には私の幸せがあるのだから。
心穏やかな気持ちで私はライザール様に嫁ぎ、良き夫で良き父親である彼との子宝にも恵まれた。
子育てに追われる日々の中、ふとした瞬間に時折そこにいたはずのもう一人の家族だったジェミルを思い出すこともあったが、傍にいてくれるライザール様の存在をより感じて私たちは睦まじく過ごした。
せめてジェミルの泣き顔じゃなくて笑顔を思い出せればよかったのに・・それすらもはや痛みとともに薄れようとしていた。
それは私が幸せだから。
悲しかったことや辛かったことを忘れてしまえるくらいに・・
あれ以降ジェミルからの連絡は二度となかったけれど、彼が幸せでいてくれることを心から願う。
愛を求めてさ迷うのか愛を得て地に根を下ろすのか無情に進む時の中でそのチャンスはそう何度もめぐってはこない。
心から愛せるライザール様に巡り合えた私はたまたま運がよかっただけだった。
二人の男性の求愛を前に迷ったこともあったけれど、私にとって最善の道を選んだことに後悔はない。
消えない心残りがあるだけ・・・ただそれだけだった。