シャナーサ王国の若き王、ライザール・シャナーサは家臣との対立を避けるために、アリ家との婚姻を了承した。

 

ライザール王は初婚であったが、一夫多妻の慣例に不快感を示したアリ家の娘レイラはその婚姻を良しとせず、あろうことか初夜の夜伽を付き従ってきた侍女のシリーンに命じたのであった。

 

「私あの男が嫌いなの。初婚だからって信用できないわ。だからいいわね?貴女が私の代わりに王の相手をしてちょうだい」

 

 

主のレイラ様から呼び出されたのはまさに初夜の晩だった。

レイラ様と私は異母姉妹だったから添い嫁に選ばれたが、レイラさまの気性を御存じのお父様はこうなることを見越していたのかもしれない。

 

新婦の都合がつかない時に侍女が代わりに王の寵愛を受けるのが慣例だったが、もちろん私に断る権利などなかった。

 

私は未婚なのでもちろん経験はなかったが、どうすればいいかの知識はあったけれど突然のことで気持ちの整理がつかなかった。

 

結婚したのはレイラ様なのに彼女は王と寝所を共にすることも子をなすことも拒否してしまったのだ。

 

それに対してライザール王の方も不快感は示したものの、もとより婚姻で手に入るアリ家の後ろ盾が目当てだったので閨で相手をするのが誰であろうと気にもならないようだ。

 

暗黙の了解で交わされた密約だったが、二人の思惑の贄として差し出された身としてはたまったものではない。

 

けれど踊り子だった母亡き後生活の面倒をみてくれたアリ家には恩義があったから断ることなどできるわけもなかった。

 

「いいこと、シリーン。仮にも貴女は私の代わりなのだから見苦しいまねをして私に恥をかかさないでね。王のお相手をちゃんとしてくるのよ?それからベールを外さないように。あくまでもレイラとして振舞いなさい」

 

一夫多妻を拒みながら私を身代わりに差し出すなんて矛盾じゃないのかしら?

 

そうは思ったが主の命令を拒むことはできなかった。

それにいかにレイラ様として振舞おうともライザール王も事情はご存じなのだから茶番でしかない。

 

本当にこれでいいのかしら・・・?

 

恋愛だってしたことのないのにいきなり初対面の男性に抱かれないといけないなんて・・・・

 

憂鬱でも婚儀は粛々と進み、やがて初夜を迎えた。