「貴女と話せてよかったわシリーン。元はといえば私のせいだし気になっていたの。

 

だからこっそり戻ってはみたものの、王にお会いする勇気もなかったし庶民生活で学んだ経験を生かせばしばらくは使用人のふりもできるかなって思って侍女に頼んで貴女の傍で様子見させてもらってたの。

 

貴女ったら美人だしそつがないし王がお気に召すのも納得だったのに私と同じで身分差で悩んで諦めちゃうなんてもったいないわよ。寵愛が深いなら既成事実をつくっちゃえばいいのに」

 

!!

 

それはまたなんとも大胆な意見だった。行動派の女おそるべしね。

ライザール様は避妊なさらないから可能性はあったし私自身一度もそのことを考えなかったわけじゃない。

 

「でも結婚もせずに生むのって勇気いりますよね?」

 

結婚だけはやはり私の一存でどうにかなる問題じゃなかったが、彼の子ならぜひ欲しいと思ってしまった。

 

もちろん踊り子の私が妊娠したらいろいろ仕事に支障がでてしまうのはさけられないけれど。

 

でもなにより父を知らない子供のことを思うと・・・ふと私の脳裏にジェミルのことが浮かんだ。

 

あの子もそうだったわね。ジェミルの記憶に父はおらず母の思い出だけがかろうじてあの子を踏みとどまらせていたものだった。

 

でも私と出会って身を寄せ合って彼にとって私も家族同然の存在になったのだ。

 

ジェミルの幸せを私が量ることはできないけれど、彼は世界を恨んでいないし愛だって知っている子だった。

 

「貴女って欲張りなのね~・・・完璧じゃなきゃダメなの?私はハサンがいてくれたらそれでいいわ~」

 

 

レイラさまの言葉が胸に刺さる。安定かリスク込みの可能性を選ぶのか、正解なんて人それぞれだった。

 

でも価値観の違うレイラさまとの密談は凝り固まっていた私に影響を与えるには十分なものだった。まさに目から鱗が落ちる心地だ。

 

「そうですね・・・そうですよね?私こそありがとうございます、レイラさま!ライザール様のこときちんと向き合ってみます」

 

私の心境の変化を察したのかレイラさまも屈託なく微笑む。本当になんというか大貴族の姫とは思えないほど進歩的な女性だった。

 

「そうそうその意気よ。はあ・・貴女の背中押したんだし私も王とお会いしてけじめをつけなきゃダメよね~あ~でも憂鬱だわ~ガーン

 

そういえばレイラさまは一度もライザール様の名を呼ばれないけど、やっぱり私に気を使ってくださっているのよね?

 

手先は不器用な方だけれどよく人を見てるし

細やかな気配りができる方だわ。と今更ながら感心してしまう。

 

そういえば私にもこだわりなく「ありがとう」っておっしゃったわね。

 

ライザール様へも非を認めて謝罪なさろうとされているしそのために戻られたのだとしたらさぞ勇気がいっただろう。