「貴女は私になる必要なんかないもの。だって考えてもみて、私の駆け落ちは王がもみ消した以上破談する理由もない。

 

私は彼の婚約者のままなの。王がなんとおっしゃろうとお父様は簡単に諦めないし、私が名乗り出れば王は私をないがしろにできないのよ。

 

貴女を愛していたって子供を産むのは私の役目になってしまう。

貴族にとって血統と財産を守ることと愛情はいつも悩みの種ね。

私はもちろんそんなこと望まないけどしようと思えばできるのよ。

 

そんな中途半端な関係にしがみついてはダメよ、シリーン。

王の愛を受けたいのなら貴女自身がつかみ取るべきだわ」

 

 

今度こそ絶句してしまう。

 

もしかするとライザール様がレイラさまを探し出し破談することにこだわっていたのはそんな考えが念頭にあったからなのだろうか?

 

彼女の身代わりではなく、私自身を何度も望んでくれたのもそのため?

 

でも私はレイラさまの身代わりに甘んじてしまったから、ライザール様は私を手放す方を選ばれたのかもしれない。

 

身分が違うからって最初から諦めて相手にどうにかして欲しいって期待だけしていた自分が恥ずかしい。

 

王と婚約しながら駆け落ちしたって聞いたときはレイラさまの非常識ぶりにただ驚いただけだったけど、彼女は自分の本能に従って大切なものを見失うまいと必死だっただけだった。

 

打算もなく後先も考えず彼女が選んだ道はいばらの道だったけれど、たとえ現実が彼女を打ちのめそうとレイラさまは愛を信じて現実ごと受け入れるだけの器量も持っていた。

 

「ごめんなさいレイラさま。本当は私、貴女がライザール様を選べばすべて丸く収まるとどこかで期待していたんです。私では無理でも貴女ならきっと彼の力になってもらえると思ってしまって。

 

でもそれは貴女の気持ちもライザール様の気持ちも蔑ろにする無責任な考えでした。」

 

それにもしそうなったら私自身裏切れた気持ちになってしまい耐えられなかっただろう。

 

「馬鹿ね、王が愛した貴女じゃなきゃ意味ないわよ。そうでしょ?

それに王が欲したのは私ではなくお父様の力だもの。失礼しちゃうわ。私をなんだと思っているのかしら」

 

それは確かにレイラさまの言う通りだった。絶対的な権力を持つ王に逆らってでも愛する男を選んだレイラさまの度胸にただただ感服してしまう。

 

その発想は私の中になかったものだった。