だが同時に何故戻ったのかという疑問も生じてしまうのだけど。

 

「なぜ・・・?」

 

戻ったことを責めているわけじゃなくても言いづらくてそうとしか言えなかったけれどレイラさまは察してくれる。

 

「戻ったか?・・・それはけじめをつけたかったからよ。私はハサンと幸せになったけれど、王ともなると体面もあるでしょう?もちろん戻る気なんか最初はなかったのよ?でも王は婚約を破棄するのではなく駆け落ちそのものをなかったことにして体面を守られる方を選んだってお父様から聞いて・・・だから戻ってきなさいって言われて私、揺れてしまったの」

 

 

やはりレイラさまは迷われたのだ。

 

「自分でも馬鹿だと思うわ。そんなこと無理なのに・・・でも揺れる私をハサンは許してくれたの。甲斐性のない自分が悪いからって。そんな彼を見ていたら戻るより残ることを選びたくなったの。そうしてよかったと思う。彼を選んだことに後悔なんかないの。だけどこちらの様子もそれとなく知らせてもらっていて貴女のことを知ったわ。ねえ、シリーン貴女、王を愛しているって言ったけれど、王妃になるってことがどういうことか真剣に考えたことある?」

 

!?

 

それは耳が痛い質問だった。ライザール様とは結ばれることはないと最初から諦めていたし、彼の妻になりたいというのは願望でしかなかった。

 

「・・・いえ、ありません」

 

私の言葉にレイラさまは微苦笑を浮かべる。

 

「私は考えたわ、嫌になるほど考えて無理だって思った。もちろん他に好きな人がいたからっていうのもあるけれど、でもハサンがいなかったとしても私は逃げたと思う。愛情じゃなくて政略結婚なのは明らかだったし。王は一度も私にお会いにならなかったのよ?私に興味がないことも隠そうともなさらないなんてひどすぎると思わない?私にだって選ぶ権利があるってことわからせたかった。」

 

 

侍女頭が行動派だとおっしゃってたけれど考えた以上に意志が強い方なのかもしれない。なんだかひどく自分の愚かさが身に染みる。

 

「そんな王に嫁いで彼の子を産んで一生あの場所に縛られるなんて絶対嫌だった。一度しかない人生を自分らしく後悔しないように生きたいと思って何が悪いの?」

 

 

顔を張られたような心地にがした。彼女が捨てたものは私の欲しかったものでもあるけれど、なによりも感銘を受けたのは、常識に左右されない自分らしい生き方を諦めなかったことかもしれない。

 

最初から無理って諦めて王妃の責務や責任について考えたこともなかったし、ただ受け身で彼に選んで欲しいと淡い期待だけを抱いていただけの私に運命を変えることなどできるはずもなかったのだ。