彼を怖がる人も多いけれど私は全然怖くなかった。格別私が度胸があるわけじゃなくて、たぶん彼の雰囲気が私に警戒をもたらさなかったのだと思う。
実際に会うまではもっと気性の荒い豪快なイメージだったけれど、野性的ではあったけれどけっして乱暴な男ではなかったし礼儀も弁えていた。
彼は自分の未熟さに腹を立てていた。己の感情に振り回されて失敗を重ねて痛い思いをして学ぶことはあるのかもしれない。
彼も痛みを抱えていたけれどけっしてくじけたりしない人だった。
闇の中でも強い輝きを放つ強い魂を持つ彼に憧れて気づいたら私も闇を恐れることはなくなっていた。
輝きは己のうちにあるのだと彼が教えてくれたから。私は彼に救われたし、そして私自身の輝きで誰かを救いたいと心から思った。
私は彼の傷ついた体を彼は私の傷ついた心を癒してくれた。
常に前を見ている彼が留まることはけっしてなかったしその強い眼差しは遥か高みを見据えていた。
そして傷の癒えた彼は去ってしまった。
たぶんそれが私の初恋だった。
――――っ
目を覚ますとすでに夜明けだった。
隣で眠るライザール様の頬にそっと触れる。
強い目力を持つ眼は閉じられていたけれど、通った鼻筋も何度もキスした肉感的な唇も好きよ。
おかしな夢を見たせいかなんだかひどくデジャヴを感じてしまう。
このベッドを使ったのはライザール様とライラ・ヌールだけだからかしら?
もちろんライラ・ヌールとは一緒に寝なかったけどね。
看病しなきゃいけないから私はふかふかのラグを敷いた床で寝起きしたの。
でもたぶん彼に迫られたら拒めなかったかもしれない。それだけ私にとって彼は憧れの存在だったの。
彼が紳士でよかったわ、ホント。
そのおかげで私はライザール様に初めてをささげることができたのだもの。
もし私が生娘でなかったら彼とは一夜の恋で終わってしまったかもしれない。
なんだか無性にそんな気がした。
彼に抱かれたのは成り行きだったし、密偵としての意地もあったかもしれないけど恋の予感を感じながら二度も見過ごすのが嫌だったのだと思う。
私の性格から言って、ライザール様が侍女達と愉しんでしまったらそれを知りながら彼と恋愛に至ることはけっしてなかったでしょうから。
ただのクライアントと割り切ってしまって踏み込むこともなかったでしょうね。
私と侍女たちを天秤にかけたライザール様だったけれど、嫉妬心を承知で私を選んでくれたから私も迷わず彼に身を委ねることができた。
私は彼の傷ついた自尊心を癒して彼は私に女としての自信をくれた。
だからライザール様にはとても感謝している。
彼は私にとってかけがえのない男性だわ。