ここからならカマルの方が近い。

 

「あの・・・よかったら私の部屋に来ませんか?」

 

私の申し出にライザール様は驚いたようだったけど、しばしの逡巡の後頷いてくれたこともあり一緒に帰路についた。

 

久しぶりの我が家の匂いにホッとしてしまう。

留守でも相変わらず部屋はきちんと片付いていた。

 

――ほんとみんなありがとう!!

 

この場所にライザール様を誘うのは2回目だけれど、前に来たときは着替えついでに立ち寄っただけだった。

 

でも今夜は泊まってもらうつもりだから少しだけ緊張してしまう。

 

だってこの部屋に来たことがある異性なんて店主様だけだった。

彼とはもちろんなにもないし、私の養父みたいなものだから『恋人』として来てくれたのは本当にライザール様だけだった。

 

部屋に案内したらやっぱりライザール様は猫足のカウチに腰を下ろした。

 

やっぱり猫派!?

 

でもどちらかというと彼自身がネコ科の肉食獣のようなものね。

警戒心が強い彼の縄張りに少しずつ入ることを許してもらえた上に、遊びにきてもらえるなんて出会った頃は思いもしなかったけれど・・・

 

私自身そんなに親しみやすい性格なわけじゃないのに・・

客商売だからお愛想は振るうけど心まで許したことは一度もなかった。

 

子供の頃貧しさや大人の裏の顔をさんざん見てきたせいかもしれない。

 

王宮で生まれ育ったライザール様は貧しさとは無縁なはずなのに身分の低い相手の話もきちんと耳を傾けるし、見下したりもしない稀有な方だったから不思議なほど反発もなかった。

 

でもそのせいで彼は貴族と対立を余儀なくされて孤高の方だったから少しでも力になりたかった。

 

一目ぼれなんてありえないと思ってたのにたぶん最初から私は彼に惹かれていた。

 

私はやっぱりライザール様が好き・・・大好き

 

でも私を好きだからこそ身を引いてくれたジェミルのことが思い浮かぶ

 

あんな愛し方私にできるのかしら?

 

私はライザール様にとって仮初の女でしかない。

どれだけ思っても結ばれることのない立場の女だった。

 

いくら愛しても野心のためレイラさまと婚姻を結ぼうとしたライザール様の力に私はなれない。

 

彼には有力者の後ろ盾が必要なのに・・・

 

愛がなくてもレイラさまならライザール様の力になってあげられていた。