宮殿に戻るというジェミルと別れる時、どこか言い渋る様子で彼がぽつりと言った。
「邪魔してごめんな・・・シリーン。デートだったんだろ?アイツと」
!
私はジェミルの謝罪を受け入れた。
「ううん。いいの。・・家族がいたらこんなかなって思えてなんか楽しかったし」
そう言ったらジェミルも照れたように頷く。
「だな・・・その感じわかるぜ。俺にとっての家族はアンタだけだからさ・・・アイツがアンタの『恋人』ってのが納得いかねえけど」
ジェミルの言葉に複雑な心地になる。堂々と付き合えない関係の私たちを恋人だって言ってくれるのね、ジェミル・・・
「ありがとう・・・ジェミル」
嫉妬があっても私の気持ちはちゃんと考えてくれるジェミルの優しさが胸を打つ。
私はそこまでジェミルの気持ちを考えてあげられただろうか?
「おごってもらっちまったから今夜は引き下がってやっけどシリーン泣かせんなよオッサン!」
妙に律儀なことをいうのはジェミルなりのライザール様への譲歩を込めた照れ隠しなのね。飢えに苦しんだことがあるせいか一飯の恩は忘れがたいの、わかるわ。
「ふん、お前に言われるまでもないことだ、小僧」
偉そうだけどライザール様もジェミルを気に入ったみたい。よかった。
「ちっ・・・じゃあな、シリーン、また職場で会おうぜ」
手を振り駆けていくジェミルの背が見えなくなるまで見送った後、やっと二人きりになったのを意識してしまう。
ジェミルが来なければたぶん大人しく宮殿に戻っていたでしょうけど、お忍びのライザール様の立場を考えたら一緒に戻るわけにもいかなくてどうしようか迷いが生じた。
宮殿は暗殺者がうろついていて危険だし、今日一日一緒にいて無事だったことも踏まえた判断だった。