ジェミルと別れた私はレイラに戻るため侍女たちと合流した。

すると私の腕輪を見た侍女頭が言う。

 

「あら、素敵な腕輪ですわねえ・・アンティークですね。高価なものですが、ちょっと使用人が身に着けるにはふさわしくありませんわね。レイラさまの時でならだいじょうぶですけどね」

 

 

やはり私が考えていた以上にこれは高価な品だったようだ。

貧民の出とは言え、ジェミルはもともとどこかいいところの子だったという噂が当時あったことを思い出す。

 

孤児は過去を語りたがらないけど一番親しかった私にジェミルは教えてくれた。

 

彼は父を知らず最愛の母を失い孤児になってしまったのだ。

両親すら知らない私だったけれど、目の前で愛する者を失ってしまう無力感は想像を絶するものだろう。

 

迎えが来てジェミルとは離れ離れになってしまったが、引き取り先が裕福なのかもしれない。

 

でもアンティークだなんて。もしかするとこれは・・・

 

なんとなくだがジェミルの両親の縁の品なのではないかと感じた。

もしそうだとしたらそんな大切なものを私が持っていてもいいものか・・

 

ただもちろんすべては私の想像の域をでない。

デリケートな問題だけに聞くのがはばかられてしまったが、それこそ密偵の本領発揮なのかもしれないけれど、ジェミル相手にできるかどうか・・

 

できたらジェミルには知られたくないのよね「密偵」(仕事)のこと

 

湯を使いレイラの服に着替えた私はジェミルから貰った腕輪を身に着ける。

 

高価なものだという侍女頭の言葉を疑うわけではなかったが、ライザール様の反応を試してみたくなってしまったからだ。