そんなことはつゆ知らず本日の私は朝から使用人モードだった。

 

私の腕にはジェミルからもらった腕輪がはまっていた。

貢がれることが多い私にとってもこれは特別な腕輪だった。

 

音譜

 

使用人がつけるには分不相応な品だったけど、逆に使用人だからこそ誰も本物とは思わないのだろう。デザインは凝っていてもよくできたイミテーションだと思われているようだった。

 

一仕事終え厨房に戻るところでジェミルと遭遇する。彼も戻ったばかりのようだった。

 

昨夜の暗殺未遂事件のせいか周囲はざわついていると思ったけれど、ライザール様が日常茶飯事と言っていたのは大袈裟なことではなく事実だったらしい。

 

辺りは不気味なくらいいつも通りだった。

そんなことを考えていたらジェミルが躊躇いがちに言った。

 

「シリーン・・・その腕輪・・してくれたんだな」

 

ベールをしている者同士目印として揃いの腕輪をつけていた。

 

「ええ・・・せっかくジェミルがくれたんだもの。でもいいの?ジェミルなら他の娘がほっておかないんじゃない?」

 

つい気安さから一歩踏み込んだことを聞いてしまった。私にプレゼントをくれたジェミルの気持ちがどのあたりなのか好奇心からだった。

 

すると案の定というかジェミルは真っ赤になって絶句した。

なんというか相変わらず純情な子のようだ。

 

「っいね~よ!女なんて!!・・・俺が好きなのは・・・っなんでもねえ」

 

ふふふ・・からかいがいのある子ね

 

でもジェミルの本命ってもしかして・・・私?

これはあまりつつかないほうが身のためね

 

軽い気持ちで腕輪を受け取ってしまったことを後悔する。

 

でもこれは数年ぶりに再会できたジェミルとの絆に思えて突き返すことはできなかった。

 

ジェミルの気持ちは確かめたわけじゃないからわからないけれど、でも私が愛しているのはライザール様だから彼の気持ちに踏み込むべきじゃなかった。

 

「そういや・・・仲直りできたのか?ケンカしたって言ってただろ?」

 

 

気にしてくれていたのね。でも先にジェミルに心配をかけたのは私だったからけじめはつけないと。

 

「ええ・・・ちゃんとね。心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」

 

私の言葉に少しだけジェミルの顔がかげる。だけどすぐに笑顔で言った。

 

「そっか・・良かったな。俺、あんたが泣いてるのやなんだよ」

 

 

無理して笑わなくてもいいのに・・でも私はきっと彼を失望させてしまうからなにも言えなかった。