なんとか大役を果たし大使夫妻が部屋に引き上げるのをお見送りした私は付き添っていた近習にライザール様の所在を尋ねてみることにした。
私の耳に入れるべきか言いよどんだ近習が周囲を憚るように答えてくれた。
驚いたことにライザール様は自ら捕虜の尋問をされているらしい。
!
それはいわゆる裏の顔というやつではないだろうか?
どうしても気になった私は怖いもの見たさで牢へと向かった。
目立たぬように真っ黒なベールとガウンで身を包んでいた。
華やかな宮廷ではあっても罪人を入れる牢が立ち並ぶのは薄暗く冷え冷えとした地下だった。
当然見張りはいたけれど、私が誰なのか知らぬ者はいないし衛兵が止めるのを聞かずに地下牢へと降りたことをすぐに後悔したくなった。
激しく肉を打つ音と血の臭気が恐怖をあおる。
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タロットカードのように吊るされて拘束されているのは確かに先ほどの男だった。
「・・・・あ、なんてこと」
いかに密偵といえど動揺してしまう。
男を前に鞭を手に佇んでいるライザール様の顔には慈悲のかけらもなかった。
「・・・・レイラ、ここで何をしている?接待はどうした」
声を発してしまったためすぐにライザール様には気づかれてしまったが、私の雰囲気から察したのか彼の顔にも微かな動揺が浮かぶ。
「・・・大丈夫です。そちらは無事終わりましたから。差し出口をお許しください。そこまでする必要があるのでしょうか?」
たとえこの男が暗殺者であり、極悪人だったとしてもやりすぎだった。
「こいつはあらゆる違法な売買に関わったゲスだ。お前が庇う価値などない」
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その強い言葉に身が震えたけれど、それでも私はなお言いつのった。
「そんな男どうでもいい!!非道な行いをする貴方を見たくないだけです。お願いですからもうやめてください!」
それが私の本音だった。大切に想う相手が暴力を振るうのはやはり見ているのは辛いものだ。