寝台に腰掛けながら水煙草を吸うライザール様の横で私はお借りした本を開いた。

 

本には書き込みもなく折れもなかったがところどころに栞が挟まれていた。

 

「その本か・・・各国の文化や歴史をまとめたものだが、いい予習になるだろう」

 

ちらりと横目で確認するライザール様の横顔に頷き返しながら、本に目を通す。

 

短時間でも集中すれば読破可能だったが、少しでも長く一緒にいたいという気持ちもあって少しだけゆっくりページをめくる。

 

栞のページには各国の料理や芸術、工芸などが特集されていた。

 

「ふふ・・美味しそう」

 

ルーガン王国の蜂蜜菓子のトローナや燐帝国の金梅酒なども掲載されている。

 

かの国おいてはあくまでも高級な梅酒だったが門外不出の品らしい。ライザール様はさすがに王だけにどなたからかの献上品なのだろう。

 

宝飾品のページにはテロメアーナ鉱石も紹介されていた。

青さが際立つわが国の主要な特産品だった。

 

「あ、これライザール様が発見されたのですよね?」

 

ライザール様の胸飾りも同じ宝石だった。何カラットあるのかしら?黄金の金環が空洞であっても相当な重さだろう。肩こらないかしら?

 

私の問いかけにライザール様は頷くと続けた。

 

「ああ・・・まあな。興味があるなら連れて行ってやってもいいが・・どうする?」

 

『そうだ・・お前さえよければまた二人きりで出かけよう』

 

誘いを受けたのは夕方のことだった。

 

テロメアーナの採掘場など果たしてデート向きかは微妙だったけれど、観光名所だと思えばいいのかもしれない。(砂漠の中ですものね)

 

「・・・遠出になりますわよね?大丈夫なのでしょうか」

 

仮にも王なのだから安否は常に確認しなければならない相手だけに躊躇してしまう。いくら私の腕に覚えがあるといっても不測の事態ということも起こりうるのだから。

 

「ああ・・その点は心配ない。慣れているからな」

 

!?

 

さらりとすごいことをおっしゃられた気がするけれどあえて追及はしないでおく。

 

密偵の私の背後をとったことといいやはりライザール様はただ者ではないのかもしれない。