「お戻りになられたのですね、レイラさま。気分転換できまして?」

 

彼女は私が踊り子であることは知らないけれど、たぶん表情から察したのだろう。

 

ライザール様もだけれど彼女もまた私をよく見ているようだった。

自分では平気なつもりだったけれど、やはり見る人が見ればわかってしまうのだ。もっと注意深く振舞わなくては。

 

「・・ええ。留守中になにかあった?」

 

侍女も様々だったけれど彼女とは比較的馬が合った。とはいっても本当の主はレイラさまだからいざとなったら彼女だってレイラさまに従うだろうけれど。

 

それでも感謝はしていた。

 

「特に何もございませんでしたわ。あ、でも王からうかがっていると存じますが会議がございますでしょう?以前から決まっていたこととはいえ慌ただしくなりそうですわよねえ。人手もいくらあっても足りないかもしれませんわ。」

 

 

人手が足りないというのは耳寄りな情報だった。

 

なにせ本当に暇だったのだ。今回のように息抜きに宿下がりばかりできるわけではなかったし(貸し切り御礼の上ライザール様がご祝儀を奮発してくださったからカマルの方は当分安泰だけれどね)宮中ではあまりお金を使うことはなかったけれどいざという時の賄賂にもなるしあって邪魔にはならないものだ。

 

幸い私は顔を知られていないし、使用人だからベールで隠しても咎められることもなかった。

 

「ねえ、ものは相談なんだけれど・・・」

 

相談をもちかけると当然のことながら侍女頭は驚いたようだったがライザール様からも私の要望にできるだけ答えるように言い含められてでもいるのかしぶしぶといった様子で了承してくれた。

 

「王にも内緒だなんて・・心配ですわ。あまり無茶はなさいませんように」

 

密偵として暗躍するわけではなかったし、暇つぶしも兼ねていたが給金分はきっちり働くつもりだった。

 

侍女頭のコネを最大限に使い私は使用人として紛れ込むことが可能になったのだった。

 

ライザール様はああおっしゃったけれど、万が一にもレイラさまが戻られた時のために王宮に居場所を確保しておきたかったのだ。

 

クライアントはライザール様だから彼の意向には従うつもりだけれど、私と大貴族の姫であるレイラさまとではそもそも立場が違いすぎた。

 

つい好奇心に負けて一線を越えてしまったとはいえ、身の程は弁えなくては。

 

そのための布石を打っておく必要を感じていた。