支度を終え店主様と別れ、ライザール様とともに帰路につく馬車の中で今後のことなどを打ち合わせながら私は先ほどのキスのことを考えていた。

 

求められたからキスをしたわけじゃなかった。私から求めることはできなかったけれど、ライザール様の笑顔を見た途端キスをしたくなった。

 

こんな気持ちになったのは初めてだった。

もしかして・・・私は彼に惹かれているのだろうか?

 

自分の気持ちがわからないなんて不思議かもしれないけれど、踊り子として華やかに見える私だがこれまで一度だって心が華やいだことなどなかったのだから。

 

孤児だった私が店主様に拾われて踊り子兼密偵になるのは並大抵のことではなかった。

 

踊り子として男たちに夢を与える一方、密偵として心に寄り添いながらも幾度も辛酸をなめてきた私はいつしか感情を切り離すすべを自然と身に着けてしまった。

 

だからか魑魅魍魎の住まう宮中でその際立った才を遺憾なく発揮するライザール様にシンパシーを感じたのかもしれない。

 

貴方はなぜそこまで強くいられるの?

 

役割を終えれば解放される私と異なり彼はあの中で王としてこれからも君臨しなければならないのだ。

 

誰か一人でも彼が心を許せる方がいればいいのに。

そう願わずにはいられない一方で、せめて私だけでも・・と思ってしまった。

 

この感情が恋なのか同情なのかわからないけれど言葉にするのは難しかったから

 

キスをされた時は嬉しかったのに・・・