「ね、少しだけ待っていてくださる?さすがにこの格好で戻るわけにはいきませんもの」

 

顔を向けライザール様の意向を確認すると彼は頷いてくれた。

 

数週間開けた自室がどんな具合か心配だったけれど踊り子の娘たちがかわるがわる掃除をしてくれていたようだった。

 

――みんなありがとう!!

 

メーンダンサーの私は一番上等の部屋をあてがわれていた。

もちろん豪華絢爛で贅を尽くした王宮の部屋とは比べ物にならなかったけれど、好みの家具や雑貨で飾られた自分の部屋がやはり一番落ち着く。

 

ライザール様が私のお気にりの猫足のカウチに腰掛けるのを横目に見ながら燐帝国産の透かし彫りの衝立の向こうでレイラさまの服に着替える。

 

お茶はあえてお出ししなかった。王だけあって用心深い方なので店主様が用意したものも一切手をつけられなかった。彼が口にするのは自分が持ち込んだ革袋の水だけだった。

 

もったいないけどたぶん今頃は踊り子の娘達が喜んでるでしょうね。踊ると喉が渇くもの。

 

本当なら構ってくれないライザール様の前で色気たっぷりに着替えたいところだけど、急いで戻らないといけないだろうから諦めた。

 

さっさと着替えて戻ると彼は私の部屋をご覧になっていた。

女性の部屋が珍しいというわけでもいでしょうけど、リラックスされているのかしら?

 

「お待たせいたしましたライザール様、あのどうかなさいました?」

 

声をかけるとライザール様が顔を上げる。

 

「いや、なかなか居心地の良い部屋だと思っていた。お前の人柄が表れているようだ」

 

お世辞でしょうけどちょっと嬉しい。おもてなしが十分にできなかったけれど少しでも寛いでいただけたならよかった。

 

「ふふ・・・ありがとうございます。でもライザール様の部屋だって素敵ですわよ?珍しい本がたくさんあって羨ましいです」

 

それは私の本音だった。