笑顔で応じる私とライザール様の視線が絡む。店主様が気を使われたのか気づいたら場内は人払いがされていて二人きりだった。

 

――あ、キスドキドキ

 

久々のキスだったけれどごく自然に受け止める。唇を誘うように開き彼の舌を迎え入れながら心行くまで甘い口づけを堪能する。

 

頬が火照り目がかすむけれど薄く開いた目でライザール様を見つめたら彼はこちらをじっと見ていた。蛇香のライラ  ライザール×シリーン キス盗人

 

思わずドキリとしてしまう。やはりライザール様はこんな時でさえ冷静さを失わない方なのだと思えば少しだけ心がざわついてしまう。

そんな彼を見たくなくて私は咄嗟に目を閉じた。

 

初めての時は夢中で気づかなかったけれど彼はあの時も冷静に私を観察していたのかもしれない。

 

気持ちがなくても割り切った行為ができる人は多いだろうけど、誰にも心を許さないなんてなんだか悲しい気がした。

 

もちろん私が知らないだけで彼にもそんな相手がいるのかもしれないけれど、この数週間彼と接した私にはとてもそうは思えなかったのだ。

 

無理もない。数週間でさえ宮中が孤立無援の温もりに欠けた場所だということを実感するには十分だったから。

 

でも彼の目を見た途端気持ちが萎えてしまった私は身を引いた。

 

ライザール様は訝しむような眼差しで見られたけれどなにもおっしゃらなかった。

 

男女の心の差というか温度差を感じるのはこんな時だ。あれが彼のいつも通りならば私のような反応を女が返すのもよくあることなのかもしれない。だからか彼も問わない。

 

全ての行為に意味を求めてはいけないのだろう。疲れているのにわざわざ私の舞台を見るために足を運んでくださったライザール様を責める気は毛頭なかった。

 

彼は私のクライアントだし、恋人というわけでもないのだから。

ほんの少し感じた寂しさを押し隠し私は彼に微笑みかける。

 

「・・・・・・」

 

私の変化を察したのかライザール様は無言だったけれど、やがて嘆息の後腰を上げた。

 

「名残惜しいがそろそろ戻らねば。お前も共に来るだろう?」

 

二人の間に亀裂がないか確認するかのように手を差し伸べるライザール様の手を私は迷わず取ると先導するように歩き出す。

 

実は少し照れ臭かったのだ。

 

少し体温の低い彼の大きな掌の感触が好き。

私は父を知らないけれどたぶんこんな感じかもしれない。