夜になりいつも通り私のもとにライザール様がお渡りになられた時、さっそく相談をもちかけてみた。

 

私の提案を聞いたライザール様は即座に関心を寄せられたようで、暇を許してくださった。

 

いわゆる宿下がりという形で堂々と王宮を抜け出す手段を得ることができた私はさっそく店主様に知らせを送った。

 

王宮で婚約者として振舞う一方でショーサロンカマルでは舞妖妃として踊る手はずはライザール様の協力のもと整ったのである。

 

驚いたことにお忙しい身のライザール様がカマルにいらっしゃることになり、私もこっそり同伴させていただくことになった。

 

もともとカマルは身分の高い方々の社交場として利用されている高級サロンだったが、これまで一度も顔を出さなかった王のお忍びの来賓とあり当日は貸し切りとなった。

 

おかげで私も人目を気にせずに心行くまで踊れるというものだった。

 

王のために特別にしつらえられた貴賓席を意識しながら生演奏の調べに身を任せ一心不乱に踊る私に注がれる彼の視線が心地よい。

 

最後の舞を舞い終わった私はライザール様におごそかに一礼してみせた。

 

渾身の踊りを披露した私に彼は惜しみない称賛と拍手をくれた。

 

「素晴らしい・・見事なものだ。踊るお前を初めてみたが本領発揮だな。さすが噂に名高い舞妖妃というわけか。どうだ、少しは発散できたか?」

 

 

聡明な方だけに私の不満もお見通しだったみたいね。

 

「ええ・・・久々に踊れて楽しかったですわ。ライザール様も楽しんでいただけましたか?」

 

連日忙しくしている彼にも少しは息抜きができたのならいいのだけど。これは明らかに公務ではないし、婚約者のよしみで来てくださったのだから。

 

「ああ・・・もちろんだ。いきいきと踊るお前の姿に見惚れた。だからこれからも時々でいいから私のために踊ってくれ」

 

 

舞妖妃の私にプライベートで踊りを披露しろと?思わず頬がゆるんでしまう。

 

「あら、私は安くありませんわよ?」

 

嬉しかったけれどつい駆け引きを楽しんでしまう。

 

「無論構わない。踊るお前は素晴らしい、だからお前のすべての時を買い取ってやろう」

 

それはもちろんリップサービスだったけれど私も悪い気はしない。

 

密偵としてももちろんプライドを持って取り組んでいるつもりだけれど、私にとって息をするくらい自然な行為である踊りはそれ以上だったから。

 

「なによりもなお言葉です。ライザール様」

 

称賛には慣れているけど、ライザール様のような特別な方からの手放しの称賛はやはり特別に思えた。