王なら美姫など見慣れているだろうに。だが悪い気はしない。

クライアントに嫌われては元も子もないからだ。信頼関係あってこそのものだった。

 

大抵の男は鼻の下を伸ばし口説きにかかるが、さすが油断のならない男だけに私を見た感動を一瞬で消し去ると口元にうっすらと笑みを浮かべてこちらをねめつけた。

 

「ほう?お前のような女が密偵とはな。まさに適材適所というわけか。だが勘違いして私をたぶらかそうとするなよ?そういう手合いの扱いは慣れている。無事ここを出たいなら仕事に専念することだ」

 

 

気難しいクライアントからの辛らつな言葉にも私が動じることない。密偵のスキルというよりは踊り子として様々な男たちを魅了してはかわしてきた上で培ったスキルだった。

 

だから余裕の笑みで頷いて見せた。

 

「もちろんです、そんな不敬なことはいたしませんわ」

 

「それなら結構。さっそくだが依頼の件を話したい」

 

私の反応を見て気が済んだのかライザール様は早速本題に入られる。

 

一国の王ともなるとお忙しいのだろう。

 

私を促し彼は歩き出す。どうやら散策ついでのようだ。大きな歩幅の王に遅れまいと私も歩調を合わせる。足音を立てない癖がついていたが、ここでは逆に目立つので深層の姫君のごとく優雅に歩く。

 

女性にことかかない様子の彼だが、どうも私同様女性に対して偏見があるのだろうか?苦い経験でもあるのかもしれない。だが先入観は目を曇らせるので排除する。

 

「それはどのような?」

 

私はライザール王を見つめる。美丈夫な男からの依頼がどのようなものであっても引き受けなければならない。

 

するとライザール王は一拍の間の後語りだした。

 

「評判は聞いている。だが実際にこの目でお前を見たうえで改めて頼むが私の婚約者になってもらいたい」

 

 

正直動揺はなかった。想定内だったからだ。身体を許す以外のことなら大抵のことはやりとげるつもりでいた。

 

「それはどなたかに成りすませ、というご依頼と理解してよろしいのでしょうか?」

 

王ともなれば婚約者候補になるのも名家の令嬢ばかりだろう。

女性の地位が低いということもあるが、一夫多妻は権力バランスを保つ目的も大きかった。