シャナーサにおいてもそれは例外ではなく愛情ではなく血統や財産の方が重視された。

 

すると案の定王は顔をしかめたがすぐに頷いて見せた。

 

「そうだ。私の婚約者のレイラ・アリに成りすまして欲しい」

 

 

アリ家とはシャナーサでも有数の大貴族だった。ライザール様とそのアリ家の令嬢レイラさまの婚約が決まったが、肝心の娘が結婚を嫌がり男と駆け落ちしてしまった。

 

密偵が情報を得て王に報告したため、王をごまかし切れなくなったアリ家の当主ターヘル自ら提案したのだという。

 

親同士の取り決めで許嫁が決まってしまうシャナーサにおいて自由恋愛を試みたとは驚きだったが、それがどれだけ王の体面を傷つけるものであるかは私でもわかる。

 

「ご事情はわかりましたが、期限はいつまででしょうか?」

 

まさか本当に婚姻するわけでもない以上、醜聞が立ち消えるまでの目くらましの案件であるならどこで見切りをつけるかは重要だった。

 

すると王は忌々しそうに眼をすがめた後、答えた。

 

「レイラが見つかるまでだ。それで構わないな?」

 

驚いたことに王はレイラさまを探し出すおつもりのようだった。

仮にも王の許嫁でありながら密通をしたうえ駆け落ちした以上処刑はまぬがれないはずだが、それだけアリ家の後ろ盾が欲しいのかもしれない。

 

それともよほど彼女に未練でもあるのだろうか?

 

「・・・はい。それで構いません。」

 

釈然としなくてもそれは私の関知することではなかった。

あくまでもクライアントの意向を遵守するのが私の仕事だった。

 

「ではお前には今からレイラになってもらう。私とレイラの婚約は公式発表はまだだがすでに知れ渡っている。ターヘルが醜聞を恐れてもみ消したから幸い駆け落ちについてはまだ露見はしていないが噂はすでに出ているようだ。婚約を破棄するにせよ私としても醜聞は避けたい」

 

王の話はわかったが、一つ懸念を払しょくしておきたかった。

口約束などどれだけあてになるかはわからないけれど。この方はもちろん、アリ家があくまでも体面を重んじるなら用済みになった私の口をふさぐことも考えられた。

 

「王におかれては醜聞をもみ消すためなら密偵の命など取るに足りないものでしょうか?」

 

用心深いのはお互い様だった。クライアントであっても私を見る彼の目は片時も予断を許さないものだった。すべては彼の胸三寸ともいえる。